28
「また生めなかったのか?」
1025
「うん。」
28
「そりゃあ、まずい。やつら、卵を生めないと知ったら、
すぐにお払い箱にしようとする。」
1025
「お払い箱って?」
28
「さあ、私にもわからない。」
1025
「どうしよう。」
28
「大丈夫さ、私の卵をやるよ。」
1025
「いいの?」
28
「いいさ。なあ、1025。君は今まで一度も生んだことないんだろう。」
1025
「うん、いちども。」
28
「そうか・・。」
1025
「なに?」
28
「あいつにそっくりなのさ。」
1025
「28がいつも話してくれる、変なやつ?」
28
「ああ。あいつも結局生まなかったんだ。」
1025
「私もその変なやつみたいになれるかな?」
28
「無理だろう。あの脱走事件以来、ここの養鶏場は厳しくなった。
逃げ出すことはまず無理。」
1025
「そんな。」
28
「しかも、やつは空を飛んだんだ!」
1025
「えー!ニワトリはとべないって・・」
28
「いや、確かにとんだ。」
1025
「・・。28も一緒に逃げ出したんでしょ。」
28
「ああ。まさかそこの柵が開くなんて思っていなかったから。」
1025
「それ以来誰も逃げ出していないの?」
28
「ああ。誰も逃げ出そうなんて考えないのさ。」
1025
「変なの。」
28
「私もそう思う。ここに居続けようとするほうが変だ。」
1025
「うん。」
28
「表に出たらさ、大きな壁があった。その向こうにはすばらしい世界が広がっているような気がしたんだ。あいつ、25は、飛ぼうってぬかしたんだ。私は、飛べないって言った。でも、25は羽ばたいて、その壁を飛び越えてい行ったんだ。太陽に照らされてとても美しかった!」
1025
「そんなに?」
28
「ああ。25は力強くて美しかった。そう、1025、君みたいに。」
1025
「私も外に行きたい!こんなところ抜け出したい」
28
「この養鶏場では私が一番古いのだが、今までそんなことを言ったのは、25と1025だけだぞ。」
1025
「行きたい、外の世界へ!お払い箱になる前に!こんなとことに居続けたら変になっちまう!」
28
「もしかしたらいけるかもしれないな。1025。」
1025
「28、本当に?」
28
「ああ。1025。もしかしたら、君は、HENじゃないのかもしれない。」
1025
「変じゃない?」
28
「HEN、英語さ。訳すると、雌鳥(めんどり)。」
1025
「雌鳥?雌鳥じゃないってどういうこと?」
28
「雄鶏(おんどり)ってことさ。」
1025
「じゃあ逃げ出した25てのも雄鶏?」
28
「ああ、そうじゃないかって思っているのさ。ここにずっと居たいって思うほうが変で、逃げ出そうって考えるのがHENじゃないんだ。きっと。」
1025
「じゃあ私は、卵も産めないし、逃げたいって思うし、HENじゃないんだね!」
28
「ああ!きっと、雄鶏。」
1025
「やっぱり、なんかみんなと違うと思っていたんだ。」
28
「たまにこういう手違いがあるんだろう。クワッ。」
1025
「?どうしたんだい?28?」
28
「餌の時間になれば、そこの柵のばねが弱まるのよ、クワッ。」
1025
「どうしたんだい?」
28
「私も連れて行って欲しいクワッ!あ・な・た・と!」
1025
「うわっ!28、なんか急に変だよ!28!」
28
「クワッ、クワッ!そう、私はHEN、あなたは雄鶏。クワッ。」
1025
「うわっ!うわっ!コケ、コケ、コケコッココーーー!」