- 御頭
- ぴくん!
- アタシ
- 動いた!
- 御頭
- ぴくん!
- アタシ
- また動いた
- 御頭
- ぴくんぴくん。ぴくッ。
- アタシ
- だからアタシはイキモノなんて大嫌い。
- 賑やかな店内
活気あふれる店員の声とお客の笑い声、食べ物の匂いばかりが立ち込めて
- アタシ
- それをガツガツ食べる人間はもっと大嫌い。何が楽しいのかしら?パパもママもお兄ちゃんも。だから皆息がクサイのよ。土曜日はいっつもお決まりのお出かけお食事コース、なんて。無理やりアタシを外に出したがる。めんどくさい。クサイ臭い。どこ行ったって人ばっかり。分かった、分かったってば。
- きっとママあたりが、はやく食べなさいとか言ったのだろう
- アタシ
- 食べるってば。キャベツとって。
- きっとパパあたりがまた好き嫌い言って、とか言ってたのだろう
- アタシ
- いいの。キャベツだけで。ほっといて。やだママ。それは絶対食べないからね。
だからその魚の目玉こっちに向けないで。気持ち悪い。
- 御頭
- ギョ。
- アタシ
- お兄ちゃん、なんか言った?
- 御頭
- ギョギョ。
- アタシ
- パパ、からかってるの?
- 御頭
- ビクッビクン。
- アタシ
- ママ、この魚動きすぎ!
- 御頭
- イキがいいんだな。
- アタシ
- よすぎるから気持ち、わる・・・へ?
- 御頭
- あ~、肩こった。この皿硬いな。
- アタシ
- ・・・ママ・・・
- 御頭
- 食うならさっさと食いやがれってな。じっとしてるの退屈なんだってーの。
- アタシ
- パパ!
- 御頭
- やめとけやめとけ。どうせ笑われるだけってな。
- アタシ
- この御頭喋ってるよお兄ちゃん・・・
- 御頭
- 「喋るわけないじゃーん」「何言ってるのこの子ったら」「またそうやって食べない理由つけてるんだろ」ほらな?言ったとおりってな。
- アタシ
- ・・・そうそう、言い訳。いつものこと・・・あははー・・・
- と、アタシは家族に言ってから、小声で御頭に話しかける
- アタシ
- アンタ、何?
- 御頭
- 見たマンマ。
- アタシ
- 御頭?
- 御頭
- アウチ。
- アタシ
- 何!?
- 御頭
- 右の背びれが動きやがった。
- アタシ
- もう身体バラバラだけど。
- 御頭
- しかし動くんだなこれが。最後のあがきでよ。
- アタシ
- あがき?
- 御頭
- 生きてー、あとちょっと、まだもうちょっと生きてーって、身体のあっちこっちが言ってるわけよ。
- アタシ
- 恨むんなら、アタシは違うんだからね。
- 御頭
- ウォ?
- アタシ
- だって食べないもん。お肉もお魚も生きてる匂いがするから。皆、よく平気で、食べて、気持ち悪い・・・
- 御頭
- おいおい、お前長生きしねぇな。
- アタシ
- なんでよ。
- 御頭
- 決まってるじゃんか。俺様を食わねーからよ。
- アタシ
- 息が臭くなるから。
- 御頭
- 臭いのは俺らじゃなくて、お前自身だろう。どうせ食ったってじっとしてりゃ。
- アタシ
- 何が言いたいの。
- 御頭
- おっと、もうそろそろ時間だ。
- アタシ
- 何の?
- 御頭
- ピクピクの時間もそろそろお終いっつーこと。ちゃんと「頂きます」しろよ。
- アタシ
- え?
- 御頭
- 文字通り、頂いて生きてんだからお前。
- アタシ
- ・・・
- 御頭
- あー、もうちょっと生きてー。
- 賑やかな店内
活気あふれる店員の声とお客の笑い声、食べ物の匂いばかりが立ち込めて
- アタシ
- ママ・・・この御頭、もう動かないよ・・・
- アタシたちは頂いたものを、ちゃんと活用して生きていけているのかしら
- おしまい