駅のホーム。男が電話している。
もしもし
もしもし?みっちゃん?
うん、どしたん。休憩?
うーん・・・うん。
うん?
いや、あんさ、びっくりせんといてな。って、多分びっくりすると思うねんけど。
うん、どうしたん?
うん・・・おれさ、仕事クビになってもーた。
・・・・・・
・・・・・・
え?
・・・
マジで?
う、うん(苦笑い)
マジ?
うん。
え?どゆこと?え、信じられへん。
やんなぁ。
やんなぁって!
ホームに電車が来る音。
や、オレも信じられへんねんけどな。でも、ホンマっぽいねん。
・・・え、なんでなんでなんで?
いや、なんかー、・・・よくわからんねんけどさ。おれも。
うん。・・・え?・・・わからんの?なんでクビにされるかわからんの?
うん。
・・・はぁ?!え、これからどーすんの?仕事なくなったら、食って行かれへんやん。
そーやなー。
え、そーやなーって!ちょっと!
あ、あんさ、ゴメンやけど、電車来てんやん。また後で掛け直していい?
え?!
ごめんな。
あ、うん。
電車の扉が開く。
男、乗り込む。
電車の吊り革がドーナツだ。
男は、もう一度電話をかける。
もしもし?
・・・どしたん?
(半笑い)あのさ、ちょっと聞いてや。これ、どゆことなんやろ。
なにが?
・・・。
仕事の話?
いや、ちゃうねん。ちゃうねん。
え?
ちょっとびっくりしてんけどさ、びっくりせんといてな。
なんなん?なんかあった?
いや、ちょっとさ、信じへんかもしれんけど、
うん。
吊り革がドーナツやねん。
・・・。
(一人で半笑い)
え?なに言ってんの?
え、だから、吊り革が、あるやん、電車の。アレが、ドーナツやねん。
・・・え?なにそれなにそれ。
(笑う)だから、
うん。
ドーナツやねん。
え、ちょっと、もしもーし、え?なに言ってんの?どゆこと?
どゆことってゆーか、や、オレも信じられへんねんけどさ、なんでなんやろ?えー?これ、本物なんかな?触って良いと思う?
え?・・・?
(触る)うわ、本物やコレ!(興奮)ほんもんやって!手に油ついたし!・・・なんか、あのー、ほらオールドファッションっぽい感じ。
・・・。
あの、ほら、いっちゃんオーソドックスな普通の。あるやん?・・・な?あれ。・・・想像できた?
(苦笑)いや。
まー・・・、コレは見て見やんとわからんで。えー・・・でもさ、なんでなんやろ、なー!なんかミスドの宣伝とかなんかな?コレ。
・・・。
な、ほんますごいな!わ、向こうの車両までドーナツやねんけど!へー・・・すっご~!!なんでなんやろ?
・・・。
もしもし?
はい、聞いてるよ。
え、信じてないやろ。
うん。ちょっと無理があるな。