- 駅のホーム。男が電話している。
- 女
- もしもし
- 男
- もしもし?みっちゃん?
- 女
- うん、どしたん。休憩?
- 男
- うーん・・・うん。
- 女
- うん?
- 男
- いや、あんさ、びっくりせんといてな。って、多分びっくりすると思うねんけど。
- 女
- うん、どうしたん?
- 男
- うん・・・おれさ、仕事クビになってもーた。
- 女
- ・・・・・・
- 男
- ・・・・・・
- 女
- え?
- 男
- ・・・
- 女
- マジで?
- 男
- う、うん(苦笑い)
- 女
- マジ?
- 男
- うん。
- 女
- え?どゆこと?え、信じられへん。
- 男
- やんなぁ。
- 女
- やんなぁって!
- ホームに電車が来る音。
- 男
- や、オレも信じられへんねんけどな。でも、ホンマっぽいねん。
- 女
- ・・・え、なんでなんでなんで?
- 男
- いや、なんかー、・・・よくわからんねんけどさ。おれも。
- 女
- うん。・・・え?・・・わからんの?なんでクビにされるかわからんの?
- 男
- うん。
- 女
- ・・・はぁ?!え、これからどーすんの?仕事なくなったら、食って行かれへんやん。
- 男
- そーやなー。
- 女
- え、そーやなーって!ちょっと!
- 男
- あ、あんさ、ゴメンやけど、電車来てんやん。また後で掛け直していい?
- 女
- え?!
- 男
- ごめんな。
- 女
- あ、うん。
- 電車の扉が開く。
男、乗り込む。
電車の吊り革がドーナツだ。
男は、もう一度電話をかける。
- 男
- もしもし?
- 女
- ・・・どしたん?
- 男
- (半笑い)あのさ、ちょっと聞いてや。これ、どゆことなんやろ。
- 女
- なにが?
- 男
- ・・・。
- 女
- 仕事の話?
- 男
- いや、ちゃうねん。ちゃうねん。
- 女
- え?
- 男
- ちょっとびっくりしてんけどさ、びっくりせんといてな。
- 女
- なんなん?なんかあった?
- 男
- いや、ちょっとさ、信じへんかもしれんけど、
- 女
- うん。
- 男
- 吊り革がドーナツやねん。
- 女
- ・・・。
- 男
- (一人で半笑い)
- 女
- え?なに言ってんの?
- 男
- え、だから、吊り革が、あるやん、電車の。アレが、ドーナツやねん。
- 女
- ・・・え?なにそれなにそれ。
- 男
- (笑う)だから、
- 女
- うん。
- 男
- ドーナツやねん。
- 女
- え、ちょっと、もしもーし、え?なに言ってんの?どゆこと?
- 男
- どゆことってゆーか、や、オレも信じられへんねんけどさ、なんでなんやろ?えー?これ、本物なんかな?触って良いと思う?
- 女
- え?・・・?
- 男
- (触る)うわ、本物やコレ!(興奮)ほんもんやって!手に油ついたし!・・・なんか、あのー、ほらオールドファッションっぽい感じ。
- 女
- ・・・。
- 男
- あの、ほら、いっちゃんオーソドックスな普通の。あるやん?・・・な?あれ。・・・想像できた?
- 女
- (苦笑)いや。
- 男
- まー・・・、コレは見て見やんとわからんで。えー・・・でもさ、なんでなんやろ、なー!なんかミスドの宣伝とかなんかな?コレ。
- 女
- ・・・。
- 男
- な、ほんますごいな!わ、向こうの車両までドーナツやねんけど!へー・・・すっご~!!なんでなんやろ?
- 女
- ・・・。
- 男
- もしもし?
- 女
- はい、聞いてるよ。
- 男
- え、信じてないやろ。
- 女
- うん。ちょっと無理があるな。