- きっと車の中で、べったり張り込んでいる記者二人
一人は見張り、もう一人の携帯からはピロピロとゲームの音
- 記者
- 王様の耳はロバのミミってやつよ。
- 新米
- あー、全然駄目すね。全然動きなし。本当にここで会うんすか?
- 記者
- 考えさせられる感じしない?
- 新米
- これ何時まで張り付くんすか?深夜デート?ガセネタくさい、臭い臭い
- 記者
- こんな仕事してるとさ。
- 新米
- こんな仕事するはずじゃなかったのになぁ。ゲーノージンがどうしたこうしたなんて、
- 記者
- 週刊誌じゃそれが一番大事なの。だからこれも大事な仕事。
- 新米
- やめちゃおっかな。もっとでかい仕事を…
- 記者
- あんた、あたしの妙に良い話ちゃんと聞いてた?
- 新米
- 聞いてませんでした。
- 記者
- よし。殴ってやろう。
- 新米
- 仕事してたんで。聞く余裕ありませんでした。ていうか、なんで携帯でゲームしてんです
か?もうとっくに交代の時間すぎてません?代わってくださいよ。
- 記者
- ミミから電波張り巡らさなきゃ。聞き逃すよ、大スクープ。
- 新米
- 見逃さないようにべったり見張ってるんでしょ?
- 記者
- よし。じゃ仕事の手を休めてちょこっとお聞き。
- 新米
- 手休めていいんすか?
- 記者
- 教訓よ。王様の耳はロバのミミ。
- 新米
- 人は秘密なんか守れないってことすか?
- 記者
- 若い。青いし臭い。
- 新米
- はい?
- 記者
- 平たく言えば、権力者には逆らうなってことよ。
- 新米
- そんな話でしたっけ?
- 記者
- 穴ほって「王様の耳はロバのミミ」って叫んだ床屋は最期に首をちょんぎられるじゃない。
- 新米
- え?そんな結末でしたっけ?
- 記者
- 概ねそんなとこよ。
- 新米
- オオムネ?最期まで覚えてないすね。
- 記者
- 表向きはね、権力者に逆らうとロクなことないってこと。でもその裏の真実は違うのよ。なんで穴ほってそれが町中に知れ渡るわけ?ありえない。そんなメルヘンチックなこと。
- 新米
- その話確かメルヘン方面すよね。
- 記者
- そんな非現実的。
- 新米
- 童話だからでしょ?
- 記者
- 穴が誰かの秘密を言うわけ?おかしいのよ。その秘密を嗅ぎつけて公に公表した誰かがいるに決まってるじゃない。じゃなきゃなんで町中に知れ渡るの。情報を伝えるのは人間に決まってるでしょうが。だからこれはね、ジャーナリズムが教訓になってるの。
- 新米
- えらい飛躍っすね。
- 記者
- 面白いのがここ。広めたのはジャーナリスト、だけど首を切られるのは床屋なの。なんで?どうして?ほら答えてみて。
- 新米
- 待って待って、最期首切られましたっけ?
- 記者
- 概ねそんなとこよ。
- 新米
- ナンかアバウト。
- 記者
- 答えはかーんたん。誰だって、知りたい欲求があるのよ。ジャーナリストの首を切っちゃったら、知る権利を切ることになるでしょ?教訓はジャーナリストは首を切られない、その代わりに権力者と戦って真実を太陽の下に引きずり出す。どんな些細なことでもね。
- 新米
- 些細な、ことでも?
- 記者
- ゲーノージンがどうしたこうしたなんつって文句言ってるあんたに教訓。ちっちゃい仕事が出来なくてナンででかい仕事が出来るのよ。ジャーナリズムの姿勢に対する、教訓。分かった?なら、文句言わずに見張り開始。
- 新米
- は、はい。なんか、とにかく、がんばりマス。今のところ、動きナシっすよ。
- 新米は、今度はなんだかやる気を持って見張りに立つ
記者はまた携帯のゲームで暇をつぶす
- 記者
- 若いね。青くて臭いわ。ゴシップなんて。
- きっと記者はうわついたジャーナリズムにうんざりしているのだ
- おわり