- 深夜である。ここは老夫婦の寝室。先ほどから物音がしている。
- 妻
- (小声で)ちょっと、ちょっと、
- 夫
- (寝ぼけて)うん・・・・もうついたか、
- 妻
- おじいさん、おじいさん。
- 夫
- もうついたか?
- 妻
- なに寝ぼけてますのん。ちょっとおきて、
- 夫
- なんや、今何時や。
- 妻
- 泥棒。
- 夫
- え?
- 妻
- 泥棒ちゃいます。この音。
- 二人は物音を聞く。
- 夫
- どんくさいやっちゃな。こんな家なんにもないぞ。
- 妻
- はぁ、警察。
- 夫
- やめとけ開き直って居座られたらかなん。
- 妻
- でも、
- 夫
- 出て行くのまったらええねん。
- 妻
- そんな。
- 夫
- そのうち出ていかはる。
- 妻
- そんな。
- 夫
- ほなどないせいちゅうねん。わしに泥棒とやりあえちゅうんか。
- 妻
- いや、ん、でもこわいわ。
- 夫
- 寝たらええねん。いずれ帰りよる。
- 妻
- 寝れませんやん。
- 夫
- おやすみ。
- 夫は布団をかぶる。物音はなり続けている。
- 妻
- おじいさん。おじいさん!
- 夫
- ねるねる。ねるねるねる。
- 妻
- 私、こわいわ。
- 夫
- しゃーないやないか。台風みたいなもんや。がまんせい。
- 妻
- ・・・・。なんの夢みてはったん?
- 夫
- は?
- 妻
- さっき、私が起こしたとき「もうついたんか?」って、
- 夫
- ・・・・。
- 妻
- それ聞いたら寝ますから。
- 夫
- 電車や。お前と一緒に電車のっとるねん。
- 妻
- どこいくの?
- 夫
- わからへん。でも周りは馬ばっかりや。立派なサラブレッドや。一つの車両に二十頭はおる。お前と二人でその馬どもにちくわ食べさすねん。馬どもはうまいうまい言うていっぱい食いよる。メチャクチャ忙しいわけや。そのなかにまつ毛がやたら濃い馬がおってな。
低い声で「そのちくわ何でできてるかしってるか?」って聞くわけや。
おれが「知らん」って答えたら、「そんなことも知らなくてお前たちはこの電車にのったのか」って馬どもは大笑いするわけや。
笑いながら馬どもの腹が破けて、なかからゲートル巻いた兵隊の足がドボ!ドボ!って突き出てくる。そんな夢や。
- 妻
- ・・・・。
- 夫
- ほら。もう寝ろ。
- 妻
- わたしどうしたらいいのよ。
- 夫
- はやくねろ。
- 妻
- そんな話きいて眠れるわけないでしょう!
- 夫
- (嬉しそうに)おやすみ。
- 妻
- いじわるでしょ?ほんまは一人で温泉に行く夢でしょ?
- 夫
- さぁどうでしょ。
- 妻
- もぉ、いややぁ。この人いややぁ・・・・。
- おわり