深夜である。ここは老夫婦の寝室。先ほどから物音がしている。
(小声で)ちょっと、ちょっと、
(寝ぼけて)うん・・・・もうついたか、
おじいさん、おじいさん。
もうついたか?
なに寝ぼけてますのん。ちょっとおきて、
なんや、今何時や。
泥棒。
え?
泥棒ちゃいます。この音。
二人は物音を聞く。
どんくさいやっちゃな。こんな家なんにもないぞ。
はぁ、警察。
やめとけ開き直って居座られたらかなん。
でも、
出て行くのまったらええねん。
そんな。
そのうち出ていかはる。
そんな。
ほなどないせいちゅうねん。わしに泥棒とやりあえちゅうんか。
いや、ん、でもこわいわ。
寝たらええねん。いずれ帰りよる。
寝れませんやん。
おやすみ。
夫は布団をかぶる。物音はなり続けている。
おじいさん。おじいさん!
ねるねる。ねるねるねる。
私、こわいわ。
しゃーないやないか。台風みたいなもんや。がまんせい。
・・・・。なんの夢みてはったん?
は?
さっき、私が起こしたとき「もうついたんか?」って、
・・・・。
それ聞いたら寝ますから。
電車や。お前と一緒に電車のっとるねん。
どこいくの?
わからへん。でも周りは馬ばっかりや。立派なサラブレッドや。一つの車両に二十頭はおる。お前と二人でその馬どもにちくわ食べさすねん。馬どもはうまいうまい言うていっぱい食いよる。メチャクチャ忙しいわけや。そのなかにまつ毛がやたら濃い馬がおってな。
低い声で「そのちくわ何でできてるかしってるか?」って聞くわけや。
おれが「知らん」って答えたら、「そんなことも知らなくてお前たちはこの電車にのったのか」って馬どもは大笑いするわけや。
笑いながら馬どもの腹が破けて、なかからゲートル巻いた兵隊の足がドボ!ドボ!って突き出てくる。そんな夢や。
・・・・。
ほら。もう寝ろ。
わたしどうしたらいいのよ。
はやくねろ。
そんな話きいて眠れるわけないでしょう!
(嬉しそうに)おやすみ。
いじわるでしょ?ほんまは一人で温泉に行く夢でしょ?
さぁどうでしょ。
もぉ、いややぁ。この人いややぁ・・・・。
おわり