- 稔と亜沙美が同棲している家。廊下を激しく走る亜沙美の足音がして、激しく亜沙美がドアを閉める音がする。外から稔が部屋のドアを開けようとするが、亜沙美が内側からそれを阻止し、開けられない。
- 稔
- (懇願するように)亜沙美、開けろよ!
- 亜沙美
- (激しく)嫌!開けない!出れない!出たくない!開けないで!開けないで!お願い!
- 稔
- 亜沙美!
- 亜沙美
- 嫌!嫌!開けないで!開けないで!
- ドアから手を離す稔。
- 亜沙美
- 止めて!開けないで!
- 稔
- (優しく)・・・。もう止めたよ。開けないよ。
- 泣きじゃくる亜沙美。
- 稔
- ・・・。
- 亜沙美
- (号泣しながら)私、沢山の人を傷付けたの。傷付けて来たの。生きてるだけで、私が生きてるだけで、沢山の人を傷付けて来たの。だから、表に出れないの。私が動くと皆が傷付くから、外に出られないの。だから、貴方の事も駄目なの。貴方が私を見る時も、貴方を私が傷付けてしまって、もう、駄目なの!私を見ると貴方も傷つくわ。
- 亜沙美の言葉に涙する稔。
間。
ドアを押さえていた亜沙美の力が抜ける。二人の間には時計の秒針の音が聞こえる。ドア越しに話す亜沙美。
- 亜沙美
- (落ち着いて淡々と)私が生きて来ただけで、貴方も今、泣いているわ。出会った事を恨めしく思うわ。私と出会わなければ、貴方は悲しくなかった筈よ。全てにおいてそう。私と出会った人たちは皆、私と出会った事を後悔しているわ。・・・。何でだろ?何で私が好きになる人達は皆、悲しくなるの?
- 泣いていて答えられない稔。
- 亜沙美
- ・・・。貴方を何度も泣かせて、御免ね。
- 泣きながらも頑張って答える稔。ドアは開く事なく、ドア越しに会話していく二人。
- 稔
- (泣きながら)僕が泣き虫の所為だ。
- 亜沙美
- 貴方を傷付けて御免ね。
- 稔
- (泣きながら)僕がナイーブな所為だ。
- 亜沙美
- 貴方を苦しませて御免ね。
- 稔
- (泣きながら)僕がMの所為だ。
- 亜沙美
- 貴方を好きになって御免ね。
- 稔
- (泣きながら)僕が恋した所為だ。
- 亜沙美
- 私を好きにさせて御免ね。
- 稔
- (泣きながら)僕が亜沙美を好きで好きでどうしようもなかった所為だ。
- 亜沙美
- ・・・。
- 稔
- (泣きながら)もう、外に出ろなんて言わない。ずっと家の中に居ていい。でも・・・。
- 亜沙美
- (稔を遮り)私の存在って何?!
- 稔
- ・・・。もう、外に出なくてもいい。ずっと、自分の中に居てもいい。でも、でも、俺が亜沙美の中に入っちゃ駄目かな?亜沙美は、人を苦しめる星の下に生まれた。僕は苦しめられる星の下に生まれたんだ。
- 稔の言葉で泣き出す亜沙美。
- 亜沙美
- (泣きながら)辛いよ。自分が辛いよ・・・。
- 稔
- 僕が弱い所為だ。
- くすり
- うわぁ!めっちゃ風邪菌つおい。思った以上につおい。ごめん。嗚呼!止めて!うわぁぁ!!!
- 終わり。