- 現代の街
人通りの多い道路、流行の音楽が聞こえて、歩く人々は軽快
パサっと、日本特殊地図協会の会長は大きな地図を広げた
- 会長
- どうですか、やはり載せたほうがいいと思うのですが。
- 店長
- はぁ?
- 会長
- 目安です。
- 店長
- あの、
- 会長
- 目的地に行くためには、必要でしょう?
- 店長
- あ、でも、
- 会長
- 人ってやみくもに歩くわけじゃありませんし。
- 店長
- 明日なんです。
- 会長
- ええ、だから早いほうが。
- 店長
- 明日オープンで、準備で忙しくて、申し訳ないんですけど。
- 会長
- 明日オープンだからこそ早めに。ね。
- 店長
- ね。って、言われても、あなた・・・?
- 会長
- ああ、申し遅れまして、私こういうモノでして。
- 店長
- 名刺あるなら初めに、
- 会長
- 善は急げと言いまして。先走りましてどうも。
- 店長
- 日本・・・特殊?地図協会?
- 会長
- ふらりと街を歩くことが大事なんですよ。歩きは営業の基本です。こんな出会いがあるでしょう?春先はね、多いんです。新しい門出、ですかね。お隣りのお店も、ほら載ってるでしょ?先月オープンしたばかりで。そのまたお隣りのお店も載ってるでしょ。街の歩道に立てかけてあるでしょう、地図。地下鉄にも貼り出しますし。この地図が水先案内人です。
- 店長
- あのー、
- 会長
- 長年の夢のお店がオープンなんですから、宣伝は広く、ひろーく。
- 店長
- いや、家継いで改装しただけで、
- 会長
- おニュー、それも素晴らしいです。
- 店長
- それより、
- 会長
- はい?
- 店長
- この地図間違ってますけど。
- 会長
- いいえ。
- 店長
- だって、お隣りのお店は美容院ですけど。
- 会長
- いいえ。
- 店長
- だってこの地図じゃ、
- 会長
- お豆腐屋です。
- 店長
- 先月オープンしたのが豆腐って、いつの時代?
- 会長
- 今現在です。
- 店長
- でも、そのお隣りも間違ってる。そこは、
- 会長
- 金物屋です。
- 店長
- え?じゃあうちは、
- 会長
- 歌声喫茶。
- 店長
- カフェ!勝手に違う店にしないでください。
- 会長
- おかしいです。ね。
- 店長
- ね。って、見りゃ分かるのに。
- 会長
- ええ、見れば分かります。だって、ほら、お店の看板。
- 店長
- え?
- 会長
- ご覧くださいませ。
- 店長、自分のお店を見上げてみた
- 店長
- 歌声喫茶・・・
- 流行の音楽はお豆腐屋さんの、トーフィーになって、子供のはしゃぐ声
夕暮れのなつかしい街に変化する
- 会長
- どうか、されましたか?
- 店長
- ・・・いいえ・・・でも、
- 会長
- はい?
- 店長
- 少しだけ、見た、あれは?
- 会長
-
白昼夢ですか。準備で忙しいせいでしょうか。
- 店長
- ずっとずっと先。ここが違う店に変わって、おニューになる夢かも。
- 会長
- ありえるかもしれませんね。この地図を広げたなら。
- 店長
- え?
- 会長
- だって、ほら書いてあるでしょう、名刺に。「特殊地図協会」よろしくどうぞ。
- 店長の子孫はきっと歌声喫茶をおしゃれなカフェにするのだろ
- おしまい