駅の線路に沿って植えられた桜並木がある。
その中の一本だけ、満開に花をつけた桜があった。
終電の終わった深夜、その桜を目指して二人の男女がやってくる。
ほんまや・・・。
な。
ほんまに、ほんまや。なんで?この子だけ満開やん。
見つけた時は、夢見てんのか思た。ここ通る人、いっこも気ぃ付いてへんみたいやし。
なんでやろ、こんなキレイに咲いてんのに。
すぐそこ駅やから。
から?
みんな目的あるし、急いでるし。目に入っても、見えてないんかもな。
もったいないなぁ。
せやなぁ・・・ほんなら、一足早いお花見っちゅうことで、まま、一杯。
男はコンビニの袋から缶ビールを取り出す。
ありがとう。それじゃ、遠慮なく。
おでんもあるで~。
おおっ!気が利くねぇ。
最後やしな。
・・・最後って、また会えるやろ。
今やったら、電話して「桜咲いてんでぇ」って言うたら、こうやって会えてたけど、
これからは、タクシー飛ばしたって会いに行かれへんねんで 。
そやね・・・。
・・・この桜見たときな、あんたやって思った。
私?
あんたは自分で、正しいって思う時期に咲いてる、他がどうとかそんなんやなしに。
でもちょっと早いねん、もう少しゆっくりのんびり咲かせたらエエねん。
見てくれる人、少ないのにもったいない。
でも、こうやって見つけてくれる人もおるやん。
早く咲いたら、早く散るねんぞ・・・。
大丈夫やから。
何が。
大丈夫やって。
大丈夫って、何がどう大丈夫やねん。
向こうに行ったら、もう少しのんびりやってみようって思ってるし。
それがエエ、絶対そうしてや。そんでまたいつか一緒に仕事しよな。
なーんか、ここだけ春みたいやな。
・・・風邪ひくなよ、ちゃんとごはん食べろよ、歯磨けよ。淋しくなったら連絡してこいよ。
お前もな。
そんなん言うたら、毎晩電話すんで~。
それはカンベン。
二人は顔を見合わせ、照れ臭くなって笑ってしまう。
へへへ・・・。
フフフ・・・。
あ、おでん、おでん食わな冷めてまうわ。
食べよう食べよう。
いただきまーす。
などなど言いながら、二人の宴はもう少し続くようだ。
END