- 男
- え?
- 女
- 「え」?
- 男
- あれ、何を買いに来たんやっけ?
- 女
- あんたがこいって言ったんやん。
- 男
- うん。
- 女
- え?なんも買いたいものないの?
- 男
- いやあったとおもうんやけど…。
- 女
- ちょっと私あした早いねんから。
- 男
- 別についてこんでいいよ。
- 女
- あんたがついて来いって言ったんやん。
- 男
- え?
- 女
- 言ったやんついてこいって。
- 男
- …。
- 女
- え、何買うのよ。タバコ?
- 男
- いや、
- 女
- お酒?
- 男
- いや、
- 女
- ヌムラー?
- 男
- え?
- 女
- ヌムラー?
- 男
- …ごめんもう一回。
- 女
- (少し大きな声で)新しいヌムラーを買いに来たんですか?
- 男
- …。ヌムラーってなに?
- 女
- は?
- 男
- ごめん、お年寄りに接するような気持ちで接してくれへん。
- 女
- いいけど。
- 男
- ヌムラーって。
- 女
- あんたが今左手にもってるやつやん。
- 男
- これはコンニャクやろ。
- 女
- コンニャクのことヌムラーって言うんやん。
- 男
- (安心して)あぁ、コンニャクか。びっくりしたなんのことかと思った。
- 男
- 疲れてるんちゃう。大丈夫?
- 男
- 大丈夫ちょっとぽーっとしてただけ。…え?
- 女
- なに?
- 男
- なぜ俺は今、左手にコンニャクをもってるの?
- 女
- 宿命ちゃう?
- 男
- 宿命?
- 女
- いまさら何をいってるの?
- 男
- 左手にコンニャクもってうろうろしているのが、俺の宿命?
- 女
- そう。
- 男
- それは、どういう宿命?
- 女
- だらか「捨ててしまえばいいものを大事にとっておく」
- 男
- …あぁ。
- 女
- 大丈夫?自分の宿命忘れたらあかんで。
- 男
- ごめん。
- 女
- で、何を買うのよ。
- 男
- そのヌムラーって呼ばれてるコンニャクは何に使うの?
- 女
- は?
- 男
- 優しく教えて。
- 女
- コンニャクは、コンニャク。
- 男
- あぁ。
- 女
- 使わないコンセントの差込口に貼り付けとくの。
- 男
- …。なぜ?
- 女
- だってそうしないとヤマダさんが入るでしょ。
- 男
- どこに?
- 女
- 差込口に。
- 男
- …。
- 女
- 宿命の授業のとき習ったやん。ヤマダは家庭の隙間に入り込むのが宿命だって。
- 男
- でも差込口はむりやろ。
- 女
- でも入りたがるの。
- 男
- それは宿命だから?
- 女
- みんな宿命で苦労してるねん。
- 男
- 左手にずっとコンニャク握って、おれ今までどうやっていきてきたんやろ。
- 女
- 私が横にいて右手を握ってたんやん。
- 男
- あ、
- 女
- もう帰る?
- 男
- うん。帰る。
- おわり。