- 男
- 今年も咲きましたなぁ。
- 女
- いい香り。
- 男
- 後で、一枝切って差し上げましょう。
- 女
- そんな、もったいない。
- 男
- おや、知りませんか?
- 女
- 何をです?
- 男
- 梅は、切れば切るほど、旺盛に枝を伸ばすんです。切らなければ花も咲かなくなってしまいます。
- 女
- 何だか、聞いたような気がします。
- 男
- 私は、あの梅が好きでね、毎年楽しみにしとるんです。
- 女
- うちの祖父は、香りのある花が好きだったそうです。
- 男
- でしたらあの梅も、おじい様のお気に召すことでしょう。梅の中でも特にいい香り がしますんで。
- 女
- 祖父は、丁度一年前・・・。
- 男
- そうでしたか。
- ウグイスが鳴く
- 男
- 初鳴きでしょうか、少しヘタクソな鳴き方でしたな。
- 女
- はい(笑)・・・本当に素敵なお庭ですね。
- 男
- いやぁ、あなたのように若い娘さんに誉めていただけるとは嬉しいですなぁ。
- 女
- 植物育てるの好きなんです。でもワンルームマンションじゃスペースも限られてて・・・。
- 男
- 都会じゃそういうのが当たり前なんでしょう。
- 女
- 起きてから寝るまで、土の上歩かないですからね。自然とは全然無縁です。
- 男
- しかしね、庭というのも、本当は不自然なもんなんです。人間が、好きな植物を持ってきて植えるわけですから。
- 女
- ああ、確かに。
- 男
- だから手入れを怠ると、すぐに本来の姿に戻ってしまいます。
- ウグイスが鳴く
- 男
- 今度は、上手に鳴けました。
- 女
- あ、こんなに長々と居てしまって、すみません。
- 男
- いやいや、もう少しここで待ってらっしゃい。今、梅を切ってまいります。
- 女
- ありがとうございます。
- 男は、立ち上がり去る。入れかわりに男2が入ってくる。
- 男2
- ミドリー、お、居た居た。叔父さん帰るそうだ。
- 女
- あれ・・・私・・・ここおじいちゃんち?
- 男2
- 寝てたのか?
- 女
- ううん・・・庭、ずいぶん寂しくなっちゃったね。
- 男2
- 手入れする人が居ないとな。
- 女
- 私、時々来てもいい?
- 男2
- 来てどうすんの。
- 女
- わかんないけど、おじいちゃんが教えてくれそうだから。
- 男2
- 何を?
- 女
- 今日は、取り合えず、梅の木剪定してみようかなぁ。
- 男2
- ほーお。
- おわり