男・ラジオドラマ、タイトル、飛行機乗りの告白
えっへん。
地上の君よ、聞こえるかい。
今日もまた、ゆうゆうと空をゆく。
ご存知僕ぁ、飛行機乗りだ。
空ってのはいいもんだ。
本当に、いいもんなんだ。
昨日なんかは素敵だった。
ふと目をさませば星の群れのまっただ中だ。
彼らにとっちゃ飛行機なんぞ珍しくないはずなのに、精一杯まとわりついてくる。
薄い鉄板の羽に、星がぎっしり張り付いて、ぺかぺか光るのだ。
君、見えたかい?
昨日だけ、月にも負けぬ大きさの星の固まりが、東の空に見えたはずだ。
その中心はこの僕だ。
夢のようだが本当の話だ。
ご存知僕ア飛行機乗りだ。
自由気ままに憧れて、道無き空で操縦士をやってる。
こないだ トあるデパートのチラシを巻いた。
空から何千何枚と、都会めがけてばらまくのだ。
紳士靴が半額だそうだ。
そういや靴なんて随分買ってない。
そりゃそうだ、僕は飛行機乗りだもの。
地面をけって踵を減らす事もない。
デートのお誘いさえあらば、新調だってするけれど、
今んとこその予定も無い。
ところで君、君のシューズボックスは、色んな靴で一杯なんだろう。
華やかな君だもの、そりゃもう沢山持ってんだろう。
いや何、羨ましいわけじゃない。
…ちょっぴり、苛立たしいだけだ。
実は僕は、飛行機乗りになりたかったわけではない。
飛行機そのものになりたかった。
だから少年の僕はよく、両手を広げて走ったものだ。
河川敷に、人影寂しい大通り。
小さな僕が離陸するのに、必要だった加速力は、
学校帰りのそれらの場所で作られた。
きっと教本さえあれば、いいとこまで行ったはずなのだ。
まだ身軽なあの頃に、僕は飛べたはずなのだ。
今はエンジン積んで飛んではいるが、
操縦桿を握るのを知らなかった日の僕は、
エイッと地面をけったなら、たちまち空に舞い上がる、
そんな素敵を信じてた。
あの日とある喫茶店で、
恐る恐るしたこの馬鹿な話を、
まあ私も!と目を丸くしてくれた君が、たまらなく嬉しかったのだ。
地上の君、僕ぁついに心を決めた。
どうぞ驚かずに聴いてくれ。
僕ア、君が、好きなのです。
たまらなく好きになっちまったのです。
こうしてゆうゆう空にいるけれど、心は君のもとにある。
心は、君のもとにある。
つまりハンドル握るこの僕の、中身はまさしく空っぽだ。
…どうぞ笑わんでくれたまえ。
ただ、後生ですから、ほっぺを真っ赤にあからめて
まあ、私もです。
と、小さくつぶやいてほしいのです。
そしたら僕は、格好よく、君のもとに舞い降りて、
骨を埋めるその日まで、
君と過ごす事が出来るのだ。
こうして、空に憧れた少年は、
君に恋して大人になり、
今や地上に憧れる、ちっぽけな飛行機のりだ。
…どうぞ笑わんでくれたまえ。
ただ、ほっぺを真っ赤にあからめて
まあ、私もです。
と、つぶやいてほしいのだ。
どうだろう。どうだろう。
おわり