- 大人
- 子供の歌声・・私たち大人が忘れてしまった何かを思い出させてくれる。子供にはしがらみや、恐れがない。汚れのない自由な響き。それが子供の歌声。さあ、なんでも自由に歌ってごらん。
- 子供
- ええ?歌?
- 大人
- そう、自由に。
- 子供
- だって、歌そんなに得意やないもん。
- 大人
- いいんだよ。自分の思った通りでいい。好きに歌って。
- 子供
- じゃあ、(はやりの歌を歌う)
- 大人
- (さえぎって)ちょっとストップ。うーん、君、その歌が好き?
- 子供
- 別に。まあ、はやってるし。友達も好きやって言うてたし。
- 大人
- 君が本当に好きな歌を歌って。
- 子供
- 好きな歌? じゃあ、 Yesterday, all my troble seems so far away…
- 大人
- 待って待って。子供なのに、「イエスタデイ」って。昨日を思い出すんじゃなくて、子供らしく明日のことを、もっと希望を歌おうよ。
- 子供
- じゃあ、 imagine there's no heaven..
- 大人
- ストーーップ。イマジン、渋いねえ。渋すぎるよ。
- 子供
- 戦争のない世の中が来ればええなあと思て。
- 大人
- うーん。なるほどね。僕も個人的にはそう思うけど、世の中にはいろんな人がいるから、そういう政治的なことはあまり子供のうちから考えないほうがいいよ。だいたい、君は大阪の子供なんだから、英語の歌じゃなくて、例えば大阪弁の歌とか歌ってみたら?
- 子供
- 「芸のためなら女房も泣かす?それがどうした文句があるか」
- 大人
- 文句あるよ。
- 子供
- お父ちゃんがよう歌てた。
- 大人
- もっと子供らしい歌にしよう。童謡とか。赤とんぼ歌ったら?
- 子供
- 何それ?
- 大人
- 知らない?
- 子供
- うん。赤とんぼも見たことないし。
- 大人
- えええ?子供はさ、虫かごもって、とんぼを追いかけて、暗くなるまで無邪気に走り回らなきゃ。
君子供らしくないね、駄目だよ。
- 子供
- ごめんなさい。
- 大人
- いや、あやまらなくていいんだ。僕は、あくまで君らしくいて欲しいだけだから。さあ、歌おうよ。
- 子供
- 夕焼け小焼けの赤とんぼ・・
- 大人
- (怒って)だから、そんなうまく歌わなくっていいんだよ。もっと無邪気に、元気よく。音程なんか外してもいいし、言葉もめちゃくちゃでいい。わーとかあーとかでいいんだよ。
- 子供
- (元気よく)あああああ。わああああああ。
- 大人
- そうそう、それ。
- 子供
- これ?
- 大人
- うん。もっともっと。
- 子供
- (元気よく)あああああ。わああああああ。
- 大人
- (「子供の歌声」が響く中)うーん。いいなあ。癒される。・・・子供の歌声・・私たち大人が忘れてしまった何かを思い出させてくれる。子供にはしがらみや、恐れがない。汚れのない自由な響き。それが子供の歌声。さあ、みんな、自由に歌ってごらん!
- 了