- ここは無人島。打ち寄せる波のざわめきだけが聞こえる。
春夫と真知子はどういういきさつか漂流しているのだ。
- 真知子
- あなた。
- 春夫
- うん。
- 真知子
- あれ、雨雲。
- 春夫
- あぁ。
- 真知子
- 降らないかしら、雨。
- 春夫
- あの雲はそのままいってしまうよ。この島の上はとおらない。
- 真知子
- ・・。おなかすいた。
- 春夫
- うん。
- 真知子
- おなかすいた。
- 春夫
- 草があるよ。
- 真知子
- 草はいや。
- 春夫
- あんまりしゃべらないほうがいいよ。喉が渇くから。
- 真知子
- わたしいや。こんなところで死ぬなんて絶対いや。
- 春夫
- きっと見つけてくれるよ。
- 真知子
- だったらなんかしましょうよ。発見されやすいように。
- 春夫
- 何するの?
- 真知子
- だからそれを考えるの、こんなところでひもすがら寝転んだって、どうしようもないじゃん。
- 春夫
- 「ひもすがら」
- 真知子
- だってそうでしょ、ずっと一日中じゃん。
- 春夫
- 「ひもすがら」・・。
- 真知子
- 考えてよ。
- 春夫
- いや考えてる。・・(小声で)「すがら」?
- 真知子
- なに考えてるの?
- 春夫
- いや、だから、見つかりやすい方法だろ。
- 真知子
- いま違うこと考えてなかった?
- 春夫
- そんなことないって。
- 真知子
- 考えてよ。
- 春夫
- わかってる。うーん。
- 春夫と真知子はそれぞれ考え込む。
- 真知子
- ケムリ。
- 春夫
- え?
- 真知子
- だからケムリをたててみつけてもらうの。
- 春夫
- 燃やすものがないだろ。ライターもない
- 真知子
- 火くらいなんとかしておこせないの?
- 春夫
- そりゃ、摩擦をおこせばいいわけだけど。
- 真知子
- やってみましょうよ。
- 春夫
- ・・「すがら」・・。
- 真知子
- え?
- 春夫
- え?
- 真知子
- なに「すがら」って?
- 春夫
- いや
、あの・・、火を起こすのに必要なんだよ。「すがら」。
- 真知子
- それはどんなもの、「すがら」
- 春夫
- それが、よくわかってなくて、よくつかうんだけど。
- 真知子
- 私も見たことある?
- 春夫
- あるっていうか君もつかう。
- 真知子
- ほんと?え?どんなの?ちゃんと説明してよ。
- 春夫
- だから、それがわからないんだよ。
- 真知子
- でもよくつかうんでしょ。
- 春夫
- まぁ主に昔の人がつかうんだけど。あぁもっと勉強しとけばな。
- 真知子
- いいから教えてよ。わたし、知ってるかもしれない。
- 春夫
- いや、どうだろ。
- 真知子
- こんなところでひねもす寝てるわけにはいかないでしょ!
- 春夫
- ・・「ひねもす」
- 真知子
- できることはなんでもしていかないと。
- 春夫
- ちょっとまって、
- 真知子
- なに?
- 春夫
- ますますわかんなくなってきた。
- 真知子
- しっかりしてよ!