- 男
- あの、
- 女
- はい。
- 男
- 反重力の法則ってご存知ですか?
- 女
- え?
- 男
- 反発の反に、重力。
- 女
- なんだか難しそう。
- 男
- いえいえ。端的に言いますと、人は重力に逆らっているものを美しい、もしくは面白いと思う傾向がある、という説なんです。
- 女
- すみません、何のことかさっぱり・・・。
- 男
- ああ、そうですね。例えばですね・・・
- 女
- はい。
- 男
- 以前、女子高生の間で流行りましたよね、えー、ルーズソックス。ルーズなソックスな訳ですから、重力に従えば本来足首の辺りにくしゃくしゃっと落ちてしまうもの、なんですよね。なのに落ちない。本来落ちるべきものが落ちない。それを美しいとか、かっこいいと思う子達がたくさん居たわけです。・・・こんな話つまらないですよね。
- 女
- いえ・・・川島さん。
- 男
- はい。
- 女
- 何か乗り物に乗りませんか?
- 男
- ああ、そうだ、そうですね・・・・しかし、最近の乗り物はすごいですねぇ。
- 女
- 遊園地、あまり来ないんですか?
- 男
- はぁ・・小学校以来でしょうか。
- 女
- へーえ。
- 男
- あ!あれも同じです。反重力。
- 女
- ジェットコースターが?
- 男
- ええ、あれって急速に落下したりグルグル回ったりするんですよね。普通に地上で暮らしていたら味わえない重力体験でしょ。
- 女
- ああ・・・。
- 男
- だから乗っている時間はたった数分間なのに、人は喜んで何百円もお金を出すわけですよ。
- 女
- ジェットコースターは乗らないでおきましょう。
- 男
- え。
- 女
- 苦手なんです。
- 男
- さっき乗りたいっておっしゃってなかったですか?
- 女
- ほんのついさっき苦手になりました。
- 男
- はぁ・・・まぁ、ジェットコースターに限らず、遊園地の乗り物は、ほとんど反重力を楽しむためにあるようなものですよね。ハハハ。
- 女
- どうして遊園地なんかに誘ったんですか。
- 男
- ボク、何か気に障るような事言いましたか?
- 女
- 頭のいい川島さんにとっては、随分つまらない場所に見えるんでしょうね、ここは。
- 男
- いやいや、ボクは遊園地を馬鹿にしているわけではなくて、
- 女
- はい。
- 男
- 待ってください。・・・そ、その、つまり、ボクはですねー、松本さんを一目見た時から、強烈な引力を感じてしまって、もうあなたしか見えないというか、頭があなたの事で一杯になっちゃって・・・その抵抗?違う、反動、じゃなく・・・そう、弾みだ。不器用なボクが、弾みをつけるために、反重力の場が最適だと思った訳で、一緒に反重力したいというか、あーもう、何を言ってるんだか、すみません、本当にすみません。
- 女
- わかってます。
- 男
- はい?
- 女
- そんなに大汗かいて、遠まわしにおっしゃらなくても、川島さんのお気持ちはわかってますから。
- 男
- はい。・・・それで、その・・・。
- 女
- 川島さんの事が嫌いだったら、いくら遊園地好きでも、一緒に来ません。
- 男
- それは、つまり、つまり、そういう意味ですか。
- 女
- ・・・はい。
- 男
- ・・・あー、ダメだぁー。
- 女
- ダメって?
- 男
- ボクは、今、反重力状態です。まるで地に足が着いていないかのようです、飛んでいきそうです。あの観覧車よりも高く、いや、宇宙の彼方まで・・・。
- 女
- 川島さんおいてけぼりはイヤです。
- 男
- あ、すみません
- 女
- ・・・手、つなぎませんか。
- 男
- は、はい。
- 終わってまた始まる