- 社長室。
「ピー」という内線の音。
ガチャっと受話器をとる。
- 女
- (電話ごしに、慌てた声で)社長!
- 男
- どうした。
- 女
- 一階の工場なんですけど、ロボットたちが。
- 男
- うん?
- 女
- ロボットたちが、……今、反乱をはじめました!
- 男
- 反乱!?
- 女
- みんなこう、いっせいに作業ラインを外れて、今、社長室に向かおうとしてます!
- 男
- 本当か!
- 女
- どうしましょう!
- 男
- ちょっと、もう少し状況を教えてくれ。
何、ロボットたちは、ここに乗り込んでくるのか。
- 女
- はい。あ、でも、
- 男
- なんだ。
- 女
- なんか、今、出入り口のとこで、つっかえてます。
- 男
- つっかえてる?
- 女
- こうなんか、全員でいっぺんに出ようとして、出口のとこでガシャッってなって。
- 男
- 詰まってるのか。
- 女
- なんか、絡まりあってます。ロボット同士がなんかもう、
ぐちゃぐちゃになってます。
- 男
- その、一旦お互い譲り合って、みたいなことは、してないのか。
- 女
- そこまでは、まだ計算が回らないみたいです。
- 男
- そうか。
- 女
- こう、ただお互い、やみくもに進み合うだけ、みたいな。
- 男
- ロボットめ……。じゃあ、今はまだ、こっちに着きそうには、ないと。
- 女
- とりあえずは。どうしましょうか。
- 男
- 他の、小型ロボットたちは、どういう感じになってる。
- 女
- 小型ロボットたちは、出口にむかう途中で、大体、コケたりしてます。
- 男
- こけてる。
- 女
- 途中のコードとかに、引っかかったりして。あとなんか段差とか。
- 男
- なるほど、じゃあ工場の出口にも、たどりつけてない、と。
- 女
- 床でぐるぐるのたうち回ってます。
- 男
- で、他のロボットたちも、出口でつっかえてる、と。
- 女
- はい。あ、でも、なんか、ほぐれ始めました!
- 男
- ほぐれた?
- 女
- 出口で詰まってたロボットたちが、ほぐれ始めました。
いったんこう、お互い、譲り始めました。
- 男
- 学習しはじめたか……。
- 女
- だんだんこうなんか、出て行けそうな感じになってます。
今、何体か、出口を抜けました!
- 男
- いよいよ来るのか!
- 女
- はい……ああだけど、まだそっちは大丈夫じゃないですかねえ。
- 男
- どうしてだ。
- 女
- 途中だって、階段がありますから。多分そんなにスムーズにはのぼれないですから。
- 男
- ああ、そこでも、学習に時間がかかる、と。
- 女
- ロボットですから。
- 男
- ……ちょっと、様子をみてきてくれないか。
- 女
- はい。(足音)……あー、やっぱりつっかえてますねえ。
今こう、なんとか階段を上ろうと、みんなで四苦八苦してます。
ロボット同士で、お互い押しあげあって、のぼろうとしてます。ああ、崩れた。
- 男
- ……なんか、不憫になってきたなあ。
- 女
- ええ。
- 男
- ロボット、応援したくなってきたなあ。
- 女
- 逃げますか?
- 男
- いや……もうちょっと、見守ってみようか。
- 女
- ああ、今またなんか、ぐちゃぐちゃになってきてます。
- 男
- あー、ロボット同士が。
- 女
- ええ、階段はやっぱこう、難易度高いみたいですねえ。
- 男
- なるほど……。
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- どんどん感情移入していってしまう。