- アブドラ
- 勝子さん、なんでそんな落ち込んではるんですか?
- 勝子
- うちの事はほっといて。アブドラ、もう下校時間や。とっとと帰り。
- アブドラ
- いや、そんな落ち込んではる勝子さん見たら帰れませんよ。
- 勝子
- 自分、新聞見てないんか?
- アブドラ
- スポーツ新聞なら。
- 勝子
- ほんだらわかるやろ!
- アブドラ
- …うーん?シナが移籍するとか?
- 勝子
- プロレスの事言ってるんとちゃうねん。
- アブドラ
- スポーツ新聞ゆうても、プロレスのことしか見ないからわかりませんわ。
- 勝子
- アブドラ、自分どこのクラブに所属してるん!
- アブドラ
- 伊丹求心学園女子ソフトボール部。勝子さんがキャプテンです。
- 勝子
- そうやろ。ほかに記事も見いや…オリンピックで、ソフトボールなくなるらしいねん。
- アブドラ
- へー。
- 勝子
- へー、じゃないだろ!
- アブドラ
- ああ、はい。
- 勝子
- うちの夢は、全部消えていく。甲子園にも行けない。オリンピックにも行けない。
- アブドラ
- エーッ!オリンピックに行くつもりやったんですか?
- 勝子
- 悪い?
- アブドラ
- いや、別に。
- 勝子
- わかったろ。帰り。
- アブドラ
- …
- 勝子
- なんやの?
- アブドラ
- 勝子さん…。
- 勝子
- えっ?えっ?(急に乙女らしく)
- アブドラ
- 勝子さん。
- 勝子
- 無理。私は無理やで。
- アブドラ
- そんなこと言わないでくださいよ。俺…。
- 勝子
- あかん!それ以上聞きたくない!
- アブドラ
- 俺…。勝子さんに…。
- 勝子
- 聞きとうない!わたし帰る!
- アブドラ
- 聞いてください!俺、この、高校に入って…。
- 勝子
- もともと、女子高やった、伊丹求心学園にな。
今年から共学になってな。
- アブドラ
- はい。たった一人でもプロレス研究会作って、ほんでほんで世界一を目指して…。
- 勝子
- 悪かった!何度も言ったやん。でも必要やってん!
あんたが中学生の時野球部キャプテンで、あんまりにも激しいノックを毎日するから部員が居なくなって、廃部になったって聞いたから。
うちの部は貧乏クラブで、ノックマシーン買えないから、どうしてもあんたが必要やってん!
- アブドラ
- わかってます。
- 勝子
- ほんま、ごめん。それだけやねん。
それだけの理由で、あんたを口説きにいったんや。
それだけ。なんの感情もない。ただの、部員集めの一環やってん!
- アブドラ
- 衝撃でした。あんな劇的な入学式迎えるなんて思っていませんでした。
プロレス命になって、アブドラってリングネーム自分つけて、体鍛えまくってたのに。
負けたらソフトボール部に入るってかけて戦ったら、あんなに勝子さんが強いなんて。
編み出した俺の必殺筋肉ブレーンバスター地獄ヅキを受けても、そのまま俺に向かってくるなんて!
- 勝子
- ごめん!
- アブドラ
- あの時から決めてたんです!
- 勝子
- だから。私は誰も愛さないの!
- アブドラ
- 勝子さんと世界一を見ようと!この人なら世界一を取りはる。
この人について行こうって。
- 勝子
- は?えっ?
- アブドラ
- 勝子さん。なんか考えてはるんでしょ!
ソフトボールで世界一になることを!
いつも一人残って、肉体トレーニングしてるの知ってるんです!
水臭い!何でも手伝わしてくださいよ!勝子さん。
俺、俺。あなたが世界一取るのに、ほんの少しでも、ほんの少しでも手伝えたらって思って。勝子さん(男泣き)
- 勝子
- アブドラ!
- アブドラ
- 勝子さん!
- 勝子
- アブドラ!
- アブドラ
- 勝子さん!
- 勝子
- ありがとう!アブドラ!なんかうち、吹っ切れたわ!
- アブドラ
- 行きましょう!
伊丹求心学園女子ソフトボール部キャプテン勝子さん!
- 勝子
- いくでー!
- アブドラ
- 行きましょう!今から何しましょう?俺?
- 勝子
- まずは、国会の場所調べといて。後、総理大臣の家と。
- アブドラ
- 行くんですね!戦いに!
- 勝子
- 戦うんじゃない!
- アブドラ
- すみません。交渉しに!
- 勝子
- 違う。征服しにいくんや!征服や!
- アブドラ
- さ、さすが勝子さん!行きましょう!
華道部と茶道部を征服したときみたいに!勝子さん!
- 勝子
- ありがとう、アブドラ。うちは燃えてきたで!燃えてきたでーー!
- おわり。