- そこは、町のペットショップ。
「うさぎ」のゲージの前に、少年と女が居る。
- タツヤ
- 人間とは交換が好きな動物なのです。さる学者のセツによれば、物々交換とは
余った物を交換したのではなく、交換するのが楽しいから、農作物などを余分に作ったり、余分に狩猟したのではないかと言われています。例えば、お金だってそう。
お札なんかタダの紙きれですよね。でも、みんながお金を欲しがるのは、それが何<かと交換できるからなんです。
- ヒサコ
- だから?
- タツヤ
- だから、ボクのお小遣いだって、交換しないと意味がないわけです。
- ヒサコ
- タツヤ君のパパとママは偉い学者さんなんだよね。
- タツヤ
- それは今ボクが喋っていることが、全部父や母の受け売りだと言いたいわけですか?
- ヒサコ
- 別に。
- タツヤ
- ヒサコさん、それじゃあ会話になっていませんよ。この会話も交換の一種なの
だと、父が言ってました。僕が喋る、相手がそれに答える。ボクがまたそれに答
える。相手を受け入れ、そしてボクも受け入れてもらう。素晴らしいこの循環に、「別に」などと水を差してはいけません。キャッチボールに例えるならば、ボールを持ったまま離さないのと同じです。
- ヒサコ
- 何だかんだと理屈をこねて会話をねじまげてるのは、タツヤ君でしょ。
- タツヤ
- その調子です。だんだん会話らしくなってきました。
- ヒサコ
- 理屈をこねたって、ダメなものはダメです。
- タツヤ
- だから、どうしてダメなのか、ボクを納得させてください。そうしたら、こんなところで駄々をこねたりしませんから。
- ヒサコ
- 一応、駄々をコネてるってわかってらっしゃるんですね。
- タツヤ
- 一応、子供のはしくれですから。
- ヒサコ
- さっきから何度も申し上げていますが、ご両親の方針だからです。
- タツヤ
- そういうのを責任の転嫁って言うんですよ。ヒサコさんのご自分の意見をおっしゃいなさいよ。
- ヒサコ
- 私の意見は、関係ありません。ただの「お手伝いさん」ですから。
- タツヤ
- ダメだな。そういう仕事のやりかたは苦役でしかないでしょう。ただ言われたことに従ってお金をもらえばいい、そんなのハッキリ言って仕事とは呼べません。仕事ってのは、その中に相違工夫を見つけ出し、最大限にそこでの自分を生かすこと。そしてそれに見合うお金がもらえる喜び。これこそ働くって事なんです。
- ヒサコ
- 働いた事もないのに。
- タツヤ
- しょうがないですよ、小学生は働かせてもらえないですから。でも、ボクにはわかります。ヒサコさんボクに嫌気がさしてるなって。
- ヒサコ
- そうやって何人ものお手伝いさんを泣かせて来たんでしょうね。お願いですから、お家へかえりましょう。
- タツヤ
- なぜボクがあの可愛らしいウサギさんを購入してはいけないのかお答えください。
- ヒサコ
- じゃあ、言うわよ。言えばいいんでしょ。タツヤ君が、あのウサギを家に持って帰ったら、その時点で私はクビになるの。わかる?せっかく見つけた、久々のお仕事を一日でクビになっちゃうの。だから、ウサギを買っちゃダメって止めてるの。
- タツヤ
- 正直なご意見ありがとう。
- ヒサコ
- じゃ、行きましょ。
- タツヤ
- ね、ヒサコさん。
- ヒサコ
- はい。
- タツヤ
- ヒサコさんはウサギ好きですか?
- ヒサコ
- ウサギ?別に好きでも嫌いでもない。
- タツヤ
- ボクもです。
- ヒサコ
- え・・・じゃあ、なんで?
- タツヤ
- これは、学校の隣の席の女子が言ってたのですが、本当に寂しいと死ぬんですか?
- ヒサコ
- ウサギが?(爆笑し)すっごい昔のドラマにあったね、そういうセリフ。
- タツヤ
- ドラマですか。じゃあ本当かどうかわかりませんね。
- ヒサコ
- だけど、どうして?
- タツヤ
- ボクは寂しいんでしょうか?
- ヒサコ
- え。
- タツヤ
- ウサギが死んだら、寂しいって事がわかると思ったんです。
- ヒサコ
- 誰が?ご両親が?
- タツヤ
- つまらないこと言いました。帰りましょう。
- ヒサコ
- ・・・あのさ。
- タツヤ
- はい。
- ヒサコ
- 駄々はね、寝転がってジタバタしながらコネるの。手足バタつかせて、ヤダヤダヤダ、買ってくれなきゃヤダって、泣き叫ぶの。コネてみなさいよ、パパやママの前で。子供なんだからさ。いいんだよ、もっと困らせて。もっと甘えて。子供なんだから。
- タツヤ
- ・・・はい。今度、是非。
- 終わってまた始まる