- そこは「要塞カムチャツカ」と呼ばれる網タイツ喫茶
大広間、見える女たちの足、群がるのは男たち
- 店長
- ようこそ いらっしゃいませ。要塞カムチャツカへ。当店ぼったくりなしの優良風俗アミタイツ喫茶でございます。お好きな網タイツを選んで絡まってお楽しみください。で最後はその網タイツ破いちゃってお遊び終了でございます。いらっしゃいませ3番テーブルご案内。いらっしゃいませ。ご指名いただきましてありがとうございます。
- お店の奥にある扉を開けて
- 店長
- とんちゃん、合計9足よろしくどうぞ。
- こちらの薄暗い部屋には、畳を覆うように網の目が張り巡らせて
- 店長
- とんちゃん?
- とあみ
- 店長。私泣ける。泣けるよ。どこまでいけば終わりがあるんだろうって。
- 店長
- そりゃとんちゃん、それ永遠の課題だよ。人生の課題。
- とあみ
- 課題?
- 店長
- いや、ほらあれ働けども働けどもってやつ。
- とあみ
- 暮らしは楽にならずって?
- 店長
- それが生活でしょ。
- とあみ
- そうじゃないの、そうじゃないのよ。
- 店長
- じゃどうなのよ。
- とあみ
- キリがない。だって網がミソなんだもの。だってただ丈夫なのがいいならもっとブアツイ布で作ればいいのに網がミソなんだもの。
- 店長
- チラリズムだよね。
- とあみ
- そう、網じゃないとひっかかんないんだもの。店長、だから私夢見てんの。この網引っかかるのはどんな男かって。
そんな夢見て今日も100足、200足と編んでんの。だから夢見てんのに泣けるよ。ああ、今日も誰も引っかかってないって。
- 店長
- とんちゃん…
- とあみ
- 店長、私の網、駄目なのかな。
- 店長
- 最高だよ、とんちゃん。
- とあみ
- じゃあ?
- 店長
- 丹精な作りだよね。職人だよ、この網、魚だけに使うのはもったいないって思ってとんちゃん引き抜いたんだから。漁業と風俗のコラボだよね。ウチの系列店舗でも売り切れ殺到。今じゃ雑誌も特集組む男を落とす匹敵アイテムランキング堂々の第1位。こんな網作れるのとんちゃんしかいないね。
- とあみ
- じゃなんで?
- 店長
- とんちゃん。
- とあみ
- はあい。
- 店長
- 網だけに引っかかるんじゃないよ。
- とあみ
- はあい?
- 店長
- 鏡、見なきゃ。
- とあみ
- はあい?
- 店長
- 網気にする前に、鏡見なきゃ。ね?
- とあみ
- 何で?
- 店長
- 髪、とかしたのはいつのこと?
- とあみ
- 別に不自由はないの。
- 店長
- でなくて、でなくてさ。口紅引いたのはいつのこと?マニキュアつけたのいつのこと?香水つけたのいつのこと?
- とあみ
- やあね。お風呂ちゃんと入ってるわ。
- 店長
- でなくて、でなくてさ。
- とあみ
- 歯だって磨いてる。
- 店長
- でなくて、でなくてさ。とんちゃん。とんちゃん。
- とあみ
- やめてよ、豚じゃないのよ。何?もうすでにメスブタ扱い?
- 店長
- でなくてさ。とあみ。
- とあみ
- なあに?
- 店長、夢見がちなとあみを見て深いため息
- 店長
- 夜中に網を投げるのはやめな。そんなんで男は引っかからないから。
- とあみ
- 絶対引っかかったはずだって。いつだってそう。見えない闇に向かってひらりと投げると、見えない何かがこの網の目するりとすり抜けていった気になる。きっと一瞬は捕らえたのよ。でもまだ網の目が甘いのね。だから私、今晩も闇に向かってこの新作の網投げてやるの。
- 店長
- それからとんちゃん。
- とあみ
- はあい。
- とあみの横においてある編物セットを見て深いため息
- 店長
- あげるあてもないのにマフラーなんで編むのやめな。
- とあみ
- これ渡すのが目標なの。
- 店長
- 一編み、一編み、想い込めて編むなんてやめな。それ男にしたら怖いんだから。
- とあみ
- 想いこめて何がダメー?
- 店長
- どこまで乙女なのさ。とんちゃん、汚いくせに乙女なんてどうしようもないよ。
- とあみ
- また豚!?
- 店長
- 夏に向かってるのにマフラーなんて編む女、泣けてくるより号泣するよ。
- ヤーレンソーランと店長の携帯がなる
- 店長
- あはいはい。あはいはい。一元さんね。あはいはい。すぐ行きます。じゃ、9足追加ね。あはいはい。
- 携帯しながらとあみに挨拶して部屋を出て行く店長
- とあみ
- っはう…
- 乙女らしく大きな溜め息をついて
- とあみ
- 鏡…見るよりやっぱりもっといい網作らなきゃ。もっと魅力的で素敵な。いつかきっと引っかかるはずだもん。
- このままではきっと男はとあみには引っかからないだろう
- おわり