- 女
- 昨日、出会ってからずっとプー太郎だった彼氏が、書置きすら残さず出て行った・・・。
- 女、マラカスをチャッチャッとふりながら、適当に節をつけて歌う。
- 女
- あなたに預けた生活費(チャッチャッチャッ)、それは私の生活費(チャッチャッチャッ)、給料日まであと十日、残るお金は二千円(チャッチャッチャッ)。お陰でお昼はカップメン(チャッチャッチャッ)、お湯入れ気づいた箸が無い(チャッチャッチャッ)。コンビニ走れば(チャチャ)、段差につまづき捻挫したー。あ~捻挫した~(チャッチャッチャッ)。
- 男
- ノブコ(何してるんだの意)?
- 女
- あいつが残してった思い出の品は、コレだけ・・・
- 男
- なんだそれ。
- 女
- ゴーヤ・マラカス。
- 男
- ゴーヤ?マラカス?
- 女
- (チャチャッ)ゴーヤの形したマラカス。沖縄で買ったんだ、二人で。
- 男
- 行ったのか二人で。
- 女
- ううん、出会ったの沖縄で。
- 男
- そうか。
- 女
- 何でこんなもんだけ残してったの、私たちは苦い関係でしかなかったって事?
- 男
- うーん・・・。
- 女
- で?
- 男
- 何。
- 女
- お父さんは?
- 男
- なんだ。
- 女
- なんで来たの。
- 男
- お前が呼んでる気がしてさ。
- 女
- また家出したんだ。
- 男
- 違うって
- 女
- 今度は何が原因?私、母さんに電話するからね。
- 男
- 待て。
- 女
- 待ちません。何で黙って家を出るのよ。残された人がどんだけ心配すると思ってんのよ、身勝手だよ。
- 男
- ノブコ、母さんは今、出かけてる。
- 女
- え。
- 男
- 本当にケンカしたとかじゃないから。
- 女
- そうなんだ。
- 男
- ま、以心伝心ってやつか。
- 女
- あいつ・・・おとといまで一緒にテレビ見て笑ってたんだよ。ひどいよ、何が不満だったの?私、騙されてたの?
なんだったのよあたし達の関係って。私はこれからどうしたらいいのよ。
- 男
- 突然消えるにしたって、せめてありがとうとか、サヨウナラぐらい言ってほしいよな。
- 女
- うん・・・サイテーだよ。
- 男
- オレをフッてくれ、とか?
- 女
- はい?
- 男
- いや、マラカスのメッセージ。
- 女
- (笑い)もう、そんな「おち」をつけないでよ。
- 男
- (笑い)お後がよろしいようで、ってか?・・・ま、踏ん張りなさいよ。
- 女
- 踏ん張りたくても、足痛いしさ。
- 男
- 大丈夫大丈夫。
- 携帯電話が鳴る。
- 女
- はいはい、今出ますよー。(電話に出る)もしもし、あ、お母さん、なにもう丁度良かった今お父さんが、え、よく聞こえない、倒れた?うそ、冗談、今ここに居るんだから、お父さん?・・・あれ・・・。
- 父の言葉がよみがえる。「お前が呼んでる気がしてさ」・・・。
- 女
- え、ううん、なんでもない、行く、そっちに行くから、うん、じゃあ。(電話を切る)
- そして、自分を、父を応援するように、マラカスで三三七拍子。
チャッチャッチャッ、チャッチャッチャッ、チャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッ。
- 女
- お父さん・・・踏ん張るよ、私、踏ん張るからね、だから・・・。
- チャッチャッチャッ、チャッチャッチャッ、チャッチャッチャッチャッチャッチャチャ・・・。
- 終わってまた始まる