- 男
- 僕の意見では女子は「タヌキさん」型と「キツネさん」型に分けられる。「タヌキさん」型は容姿、性格共にタヌキを連想させ「キツネさん」型は同じようにキツネを連想させる。「タヌキさん」型の特徴は一個で「安定型」。喋り方。腰まわり、骨盤の辺、あらゆる意味で安定してるのがタヌキさん型。「キツネさん」型の特徴は一言で「敏捷性」。話を聞くとき、ATMの順番を待つとき、横断歩道を渡るとき、あらゆる局面で「キツネさん」型はあわただしいほどの敏捷性を見せつける。
- 女
- はぁ。
- 男
- うん。でもって狐も狸も基本的に雑食、何でも食べる動物なわけ。となると女子も雑食かって言うと、僕は雑食だと思う。
- 女
- 雑食?
- 男
- うん。いろいろ好みはあるみたいだけど、それも後付けの理屈で基本的には雑食。でもって僕の言う「タヌキさん」型「キツネさん」型は、獲物を狙うときの狩の仕方にもその特徴があらわれているんだ。ページ二十三の右の段、図八を見てもらえるかな。
- 女
- はぁ。
- ぺらぺらとページをめくる音。
- 男
- その図は僕が綿密なデータをもとにつくった「タヌキさん」と「キツネさん」の男性に対する接し方の違いを棒グラフにまとめたものなんだ。ただまとめ方が雑だから基本的には意味はないと思ってくれ。
- 女
- はぁ。
- 男
- だから口頭でいうね。「タヌキさん」は最終的にずるい。「キツネさん」ははじめからずるい。
- 女
- ん?
- 男
- 「タヌキさん」は…、
- 女
- (男の言葉をさえぎるように)あの、結局なにが言いたいんですか?
- 男
- ちょっとまって、まだ「結局」なんて言葉でくくれるほど説明してないんだから。
- 女
- はぁ。
- 男
- では本題にはいる。君は「タヌキさん」型なわけ、
- 女
- …。
- 男
- 君は腐りかけのものは捨てるでしょう?
- 女
- はい。
- 男
- 塩入れすぎると塩辛いでしょ?
- 女
- はい。
- 男
- 大阪の地下鉄乗るとつかれるでしょ?
- 女
- そりゃ、
- 男
- ほら典型的な「タヌキさん」型だ。「キツネさん」型はすごいよ。最近では見せるためのパンツってのがあって、そのパンツは見られていいんだって、これなんか典型的な「はじめからずるい」だよね。
- 女
- 全然わからないんですけど。
- 男
- 「タヌキさん」型はその安定感で男を引きつけるんだ。つまり癒しが武器。男は忙しそうに見えるけどその仕事は、実務に三割、周囲との歩調合せに三割、あとの四割はから回りなんだ。特に文型男子はね。これはしんどい。空回りはしんどい。とくに「あ、俺、今、空回ってるな」って自覚したとき、これはしんどい。
- 女
- でしょうね。
- 男
- あ、わかる?
- 女
- すごくわかる。
- 男
- でもこの空回りって、自覚したからってとめられるもんじゃないんだよね。
- 女
- そうでしょうね。
- 男
- そうなんですよ。
- 女
- カラカラ音がするもん。
- 男
- うん。自分でも聞こえてる。そこで求められるのが君なんだ。君もわかっているとおり僕は今カラカラ空回りをしている。この空回りを止めることができるのは世界で君しかいないんだ。スイッチの壊れた扇風機みたいなもんさ、
- 女
- コンセントごと抜けばいいわけね。
- 男
- うん。まぁそうだけど、
- 女
- わかった。
- 女は何か言おうとする。が、
- 男
- タンマ!違うって!僕が求めてるのはそんなことじゃないって!
- 女
- は?
- 男
- 好きとか嫌いとかそんな乱暴な話ではないんだ。いま必要とされているのは。知性の果てにある漠然とした虚無感。宇宙に漂う我が身にともるたった一つのぬくもり。
- 女
- 具体的に!
- 男
- (小声で)キス、とか…。
- 女
- は?
- 男
- (大声で)キス!して!
- 雷が落ちる音。
- 女
- そして男に雷が落ちた。私の意見を言わせてもらえば神様はいるってこと。そしてその神様の言いたいことは、大人にならんとね、ってこと。たぶん。
- おわり