- 男
- ったくついてねーよな。
- 女
- でもね、雨の桜もいいと思わない。なんか、いじましく耐えてるって感じ。
- 男
- どこで弁当食うんだよ。これじゃゴザも引けねーしよ。
- 女
- いいじゃない、家に帰って食べれば。
- 男
- じゃあもう帰ろうぜ。
- 女
- さっき来たばかりじゃない。
- 男
- 寒いし。
- 女
- もう、さっきから文句ばっか。
- 男
- なにが。
- 女
- 私は、花を見に来たの。
- 男
- 見たでしょ。
- 女
- 花を味わいたいの、この目で、こころゆくまで。
- 男
- だってオレ朝からなんも食ってないんだよ。
- 女
- 私だって玉子焼きの端っこつまんだくらいよ。
- 男
- じゃあさ、公園の出口んとこのサ店にでも行くわ。お前は気が済むまで見ててよ。
じゃ、後で。
- 女
- ・・・なんであんたなんかと結婚したんだろ。
- 男
- え?何か言った。
- 女
- 花をめでる気持ちになれとは言わないけど、久々に二人で出かけたんだし、ちょっとくらい調子を合わせてくれたっていいじゃない。
- 男
- 心外だな、お前が花を見ていたいって言うから、オレはサ店で待つんだよ。
- 女
- でもね、この先の展開は目に見えてる。私が本当にのんびり花を見て、あなたの待つ喫茶店に言ったら、あなたは灰皿山盛りにタバコをふかして、イライラしながら座ってる。あたしがコーヒーを飲みたいとか、そんな事も聞かずにそそくさと店を出る。
そして二人とも不機嫌なまんま家に帰る。おしまい。
- 男
- ま、当たらずとも遠からずだな。
- 女
- このままじゃ、私たち離婚よ、必ずするわ。
- 男
- お前さ、離婚を黄門様の印籠みたいに振りかざすのは良くない癖だよ。
- 女
- あなたの例え話って、いつもジジむさいのね。
- 男
- オレの例え話を批判するな。
- 女
- あなた、いつだって聞く耳持ってくれないんだもの。
- 男
- 聞いてるさ、聞いてるけど、オレはお前の操り人形じゃないんだよ。
- 女
- あなたを操ろうなんて、これぽっちも考えてないわよ。
- 男
- お前には、理想の男像があって、それにオレを当てはめてみては毎度ガッカリしてるんだよ。この際だから言っておく、オレはオレだ、オレであってオレ以外の何者でもない。
- 女
- 理想の男像?そんなのがあったら毎日絶望の連続よ。願ったってあなたの足が長くわけじゃなし、祈ったって毎晩あなたのイビキはうるさいし、そんな難しい話じゃないの、桜きれいだなって思ってる私の気持ちをわかって欲しいだけよ。
- 男
- わかってるさ。オレだってキレイだと思うよ、思うから、正面から手放しで「キレイね」なんて言えねえ。美人はな横目でチラッと見るくらいが充分なんだよ。
- 女
- だから私のことあんまり見てくれないのね。
- 男
- はい?
- 女
- 冗談よ。
- 間
- 男
- ・・・こんなとこでなにやってんだかオレ達。
- 女
- うん・・・折角作ったし、お弁当食べない?
- 男
- どこでどうやって。
- 女
- そこのベンチにござ敷いて。
- 男
- 傘さしながら?
- 女
- そう。
- 男
- じゃそうしよ。
- 女
- いいの?
- 男
- このままオレがサ店行ったら離婚なんだろ。
- 女
- 脅してるつもりはないけど。
- 男
- 脅されてるつもりもないって。
- ベンチに向かって歩き出す二人。
- 男
- なに笑ってんだよ。
- 女
- ううん、ちょっとね。・・・雨、降って良かったなって。
- 男
- ほら、行くぞ。
- 女
- はいはい。
- 終わってまた始まる