ったくついてねーよな。
でもね、雨の桜もいいと思わない。なんか、いじましく耐えてるって感じ。
どこで弁当食うんだよ。これじゃゴザも引けねーしよ。
いいじゃない、家に帰って食べれば。
じゃあもう帰ろうぜ。
さっき来たばかりじゃない。
男 
寒いし。
もう、さっきから文句ばっか。
なにが。
私は、花を見に来たの。
見たでしょ。
花を味わいたいの、この目で、こころゆくまで。
だってオレ朝からなんも食ってないんだよ。
私だって玉子焼きの端っこつまんだくらいよ。
じゃあさ、公園の出口んとこのサ店にでも行くわ。お前は気が済むまで見ててよ。
じゃ、後で。
・・・なんであんたなんかと結婚したんだろ。
え?何か言った。
花をめでる気持ちになれとは言わないけど、久々に二人で出かけたんだし、ちょっとくらい調子を合わせてくれたっていいじゃない。
心外だな、お前が花を見ていたいって言うから、オレはサ店で待つんだよ。
でもね、この先の展開は目に見えてる。私が本当にのんびり花を見て、あなたの待つ喫茶店に言ったら、あなたは灰皿山盛りにタバコをふかして、イライラしながら座ってる。あたしがコーヒーを飲みたいとか、そんな事も聞かずにそそくさと店を出る。
そして二人とも不機嫌なまんま家に帰る。おしまい。
ま、当たらずとも遠からずだな。
このままじゃ、私たち離婚よ、必ずするわ。
お前さ、離婚を黄門様の印籠みたいに振りかざすのは良くない癖だよ。
あなたの例え話って、いつもジジむさいのね。
オレの例え話を批判するな。
あなた、いつだって聞く耳持ってくれないんだもの。
聞いてるさ、聞いてるけど、オレはお前の操り人形じゃないんだよ。
あなたを操ろうなんて、これぽっちも考えてないわよ。
お前には、理想の男像があって、それにオレを当てはめてみては毎度ガッカリしてるんだよ。この際だから言っておく、オレはオレだ、オレであってオレ以外の何者でもない。
理想の男像?そんなのがあったら毎日絶望の連続よ。願ったってあなたの足が長くわけじゃなし、祈ったって毎晩あなたのイビキはうるさいし、そんな難しい話じゃないの、桜きれいだなって思ってる私の気持ちをわかって欲しいだけよ。
わかってるさ。オレだってキレイだと思うよ、思うから、正面から手放しで「キレイね」なんて言えねえ。美人はな横目でチラッと見るくらいが充分なんだよ。
だから私のことあんまり見てくれないのね。
はい?
冗談よ。
・・・こんなとこでなにやってんだかオレ達。
うん・・・折角作ったし、お弁当食べない?
どこでどうやって。
そこのベンチにござ敷いて。
傘さしながら?
そう。
じゃそうしよ。
いいの?
このままオレがサ店行ったら離婚なんだろ。
脅してるつもりはないけど。
脅されてるつもりもないって。
ベンチに向かって歩き出す二人。
なに笑ってんだよ。
ううん、ちょっとね。・・・雨、降って良かったなって。
ほら、行くぞ。
はいはい。
終わってまた始まる