- プァ プァーンとクラクションの音
- ごろ寝
- …やかましな…
- 路上にごろ寝した男が小さくつぶやいた。
また クラクションがなりひびく。
- ごろ寝
- やかましわ…
- またポツリとつぶやく。バァンとドアのしまる音、
少しあわてているみたい。
- ごろ寝
- ほっといてえな、もお…
- 女
- 大丈夫ですか?呼びましょうか、救急車。貧血?車にひかれた?
持病?ちょっと…ちょっと!? ややややややだ、どしょどうしょ、
ちょっと!誰かー!?
- “ちっ”とごろ寝は舌をならした。
- 女
- …え? …あ?…ん? 今…
- かたまる女、さらにもう一度“ちっ”と舌をならすごろ寝
- 女
- ちちちちっ…て、今ちって言いました?ねぇ、ちょっと 今ちって…!
- ごろ寝
- やかましなぁ…
- ごろんと寝がえりをうってポツリ
- 女
- あれー…、おかしいおかしい、ここここの状況…
- ごろ寝
- もお、ほっといてえや。
- 女
- ほっときたいし、かかわりたくないけど、人の親切を、ちって言う?
- ごろ寝
- 何がやねん。
- 女
- えーー、だだだって、だって、たおれてるのかなって、ムシしていく
わけにはいかないし、
- ごろ寝
- ムシしていってくれてよかったのに。
- 女
- えーー、だだだって、だって、こっち車で、お宅がここで寝っころ
がってたら、私、通れないし…
- ごろ寝
- どこまで行くん?
- 女
- むこうの大通りまで。
- ごろ寝
- じゃ、むこうの一通から大まわりしていったらええやん。
- 女
- そうか、大まわりして…って何で?たおれてるわけじゃないなら、
そこどいて。
- ごろ寝
- どこで寝ようが勝手やん。
- 女
- 勝手すぎる。ここここここ、
- ごろ寝
- はー?何て?何て?
- 女
- ここ、路上。車の通り道。じゃま。どいて。
- ごろ寝
- アカン。
- 女
- あのねえ!
- ごろ寝
- アカンねん。
- と、少し言葉が沈んでる
- 女
- …何が?アカン…の?
- 使いなれていない大阪べんを使ってみた女
- ごろ寝
- おきあがる、気力が、もう、アカンわ。
- 女
- え…?
- ごろ寝
- ツルンって すべったら、あおむけに、空見えて、そしたらコンクリートも
つめたいし、見上げたら空広いし、このままちょっと耳すましたら、
ガリガリゲー、地面から、何やコレ?地球の回る音も聞こえてくるし、
- 女
- …お宅、おもいっきりコケたの?頭、うった?
- ごろ寝
- コケたことは、大したことちゃうねん。ただ、もう、おきあがる気力がない。
- 女
- …お腹、すいてるの?
- ごろ寝
- ちゃう、ちゃうねん。今まで、がんばったんやけどなぁ、何か、
1回コケたら、空が広いのに、やられてもうた。コンクリートの
つめたいのに、やられてもうた。ガリガリゲー、地球の回る音に、
やられてもうた。あーー…やられた…。
- 女
- お宅、大阪から来たの?
- ごろ寝
- …帰ろかな…でも、まだ、もうちょっと、空見とく。もうちょっと…
- 女、きっと同じように寝そべってみたのだろう
- 女
- あ…ホント、コンクリートって、つめたい…
- プァ プァーンと次の車がクラクションをならす。次の車も、
また次の車も。ごろ寝を先頭に、次々と都会に車の渋滞が
増えていく。目的地につけない人々がどんどん増えていくのだ。
- おしまい