- 屋上の2人。
ヘリコプターが飛んでいる。
- 女
- (見て)ヘリコプター。
- 男
- (見て)ヘリだねえ。
- 近づいてくる。
- 男
- 近いねえ。
- 女
- (笑って)ヘリこんなに近いの珍しいよねえ。
- 男
- ねえ。なんか……新鮮。
- 女
- ヘリ間近でみることないもんねえ。
- さらに、近づく。
- 男
- でけえー。
- 女
- 音すごいよねえ。
- もう、結構大声をださないと会話できないくらい。
- 女
- ……何やってんだろ。撮影?
- 男
- 何かねえ。撮ってるみたいな。
- 女
- 地上撮ってんのかなあ。
- 男
- ……(見て)カメラマンあっぶねー!
- 女
- (笑って)あんなに体のりだすんだ。
- 男
- 落ちるだろうあれ。
- 女
- (感心して)へぇー。
- 男
- (思いついて、ちょっと小さめの声で)ヘリの、へりに。カメラマンが。
- 女
- (聞き取れなくて)え?
- 男
- ……(大きい声で)ヘリの、へりに。カメラマンが。
- ちょうどプロペラの音が大きくなって、ダジャレがかき消される。
- 女
- 何?
- 男
- いやほら、立ってんじゃん。カメラマンが。ヘリの、ヘリのとこに……。
- またもや、プロペラの音が大きくなって、かき消される。
- 女
- (笑って)何、聞こえない。
- 男
- いや、……もういいけどね。
- 女
- ええ?
- 男
- いや、そんな大したことでもないから……。
- 女
- 何、なんていったの?
- 男
- いや、ダジャレをちょっとまあ、思いついたから、
- 女
- ダジャレ?
- 男
- なんか、言おうとするたびに、ヘリが近づいてくるからさあ。
- 女
- 何、聞きたい!
- 男
- ……(ためらいつつ)いやまあ、さらっと行きたかったんだけど。
- 女
- うん。
- 男
- ヘリが、……ヘリに。
- またもや、ちょうどかき消される。
- 男
- これ、わざとだろう!
- 女
- ええ?
- 男
- わざとやってるもんだって。操縦士が。
- 女
- 何、聞こえないよ。
- 男
- 操縦士が、嫌がらせしてるもん。ダジャレを聞かせまいと。
- 女
- (笑って)してないでしょう。
- 男
- もういいよ。そんな、何回も言うほどのことでもないから。
- 女
- いやいや、すっごい気になる。すっごい気になる。
- 男
- ええ?
- 女
- すっごい気になる。
- 男
- ……なんか、君の声だけ、よく聞こえるねえ。
- 女
- うん。あんたの声聞こえにくいのよ。
- 男
- なんかねえ。プロペラの音と、音域近いしさあ。……行くよ。
- 男、タイミングを見計らう。
- 男
- ヘリが、……。
- ヘリの音、すでにちょっと大きくなってきつつある。
- 男
- もうほら、ちょっと大きくなってんじゃん!
- 女
- なってないよ!
- 男
- またこれ、かき消されるじゃん!
- ・
・
・
- END。