- 秋の夕暮れ時。露出度の高い服を着た女(?)がマンション2階のベランダに立っていた。それに気がづいた室内の女が恐る恐るベランダの戸を開けた。
- 女
- そこでなにしてらっしゃるの。
- 男
- ・・・。
- 女
- そこは私のベランダですよ。
- 男
- ・・・。
- 女
- あなた、日本語、わかりますか?
- 男
- そんなの知らないわよ。
- 女
- ああ、通じるんですね。あ、足、足どけてください、私のカワイイネギちゃんたちがグシャグシャ。
- 男
- あら、ごめんなさーい。
- 女
- そんな事言いながら、プランターの上でモジモジしないでください。
- 男
- ちょっと、お手洗い貸してもらっていいっすか?
- 女
- あなた、ひょっとして男の方?
- 男
- 失礼ね、どこからみても立派な女でしょ。
- 女
- その脛毛、その喉仏、やはり男の方ですね。
- 男
- 違いますってば。
- 女
- 私の下着を盗む気ですか?
- 男
- 馬鹿じゃない、こんな地味でババ臭い下着、あげるって言われても要らないわ。
- 女
- 地味で、ババ臭い・・。
- 男
- あんた彼氏、いないでしょ。
- 女
- 居ます。
- 男
- うっそー、こんなヘソ上までくるパンツ履いて彼氏に会うの?しかもこれ、これって、もしかして腹巻じゃない。
- 女
- やめてください、冷え性なんです。洗濯物を勝手に触らないで。
- 男
- はいはい。ね、お手洗い貸してよ。
- 女
- ああ、あなた、
- 男
- な、何よ。
- 女
- わかった、あなた隣に越してきた、確か・・・田中さん?
- 男
- ち、違います。
- 女
- 正直に言わないと、カギかけて、このままベランダに閉じ込めます。
- 男
- わかった、わかりました。田中です。
- 女
- どうしてお隣の田中さんが、そんな格好で、そんなメイクして私のベランダに居るんですか。
- 男
- ええと・・・妹が急に帰ってきて、
- 女
- 田中さんは、そういったご職業なんですか?
- 男
- いいえ、忘年会の出し物でちょっと。マライヤキャリー、なーんて・・・。
- 女
- マイリアキャリアーリー?
- 男
- いいんですわからなければ。だからね、ビックリするでしょ、兄貴がいきなりこんな格好でいたら。
- 女
- なるほど、って私のほうが驚きましたよ。
- 男
- そうなんですけど、勝手に化粧品やら服やら使ったし、見つかったら怒られるし。
- 女
- よくも私の下着の批判まで。
- 男
- いや、なりきっちゃおうかな、逃げ切っちゃおうかな、なんーて・・・謝ります。すみませんでした。
- 女
- お願いがあるんですけど。
- 男
- はぁ・・・私のお願いは?・・・そろそろ限界なんですけど。
- 女
- 私を、女にして欲しいの。
- 男
- えー、いくらサビシイからって、それはちょっと。
- 女
- 違います。私、明日お見合いなんです。ちなみに33回目。だから私をとびきりのいい女に変身させて欲しいの。あなたの素晴らしいメイキャップテクニックで。
- 男
- ええと、無理っす。
- 女
- あらそう。じゃあベランダからお帰りになって。ごめんくださいまし。
- 女、カラカラカラとベランダの戸を閉める。
- 男
- ああ、わかったわかりました。こんなワタシでよかったら何でも協力するわ。
- 女
- ムフ、な下着も一緒に買いに行ってくださる?
- 男
- ええっ下着?
- 女
- 私の人生がかかってるんです。イヤなら別にいいんですよ。
- カラカラカラ。
- 男
- いい、行きます行きます、どこへでもお供しまーす。
- 女
- どうぞお入りください。
- 男
- あ、もう、限界かも・・・。
- おわり