秋の夕暮れ時。露出度の高い服を着た女(?)がマンション2階のベランダに立っていた。それに気がづいた室内の女が恐る恐るベランダの戸を開けた。
そこでなにしてらっしゃるの。
・・・。
そこは私のベランダですよ。
・・・。
あなた、日本語、わかりますか?
そんなの知らないわよ。
ああ、通じるんですね。あ、足、足どけてください、私のカワイイネギちゃんたちがグシャグシャ。
あら、ごめんなさーい。
そんな事言いながら、プランターの上でモジモジしないでください。
ちょっと、お手洗い貸してもらっていいっすか?
あなた、ひょっとして男の方?
失礼ね、どこからみても立派な女でしょ。
その脛毛、その喉仏、やはり男の方ですね。
違いますってば。
私の下着を盗む気ですか?
馬鹿じゃない、こんな地味でババ臭い下着、あげるって言われても要らないわ。
地味で、ババ臭い・・。
あんた彼氏、いないでしょ。
居ます。
うっそー、こんなヘソ上までくるパンツ履いて彼氏に会うの?しかもこれ、これって、もしかして腹巻じゃない。
やめてください、冷え性なんです。洗濯物を勝手に触らないで。
はいはい。ね、お手洗い貸してよ。
ああ、あなた、
な、何よ。
わかった、あなた隣に越してきた、確か・・・田中さん?
ち、違います。
正直に言わないと、カギかけて、このままベランダに閉じ込めます。
わかった、わかりました。田中です。
どうしてお隣の田中さんが、そんな格好で、そんなメイクして私のベランダに居るんですか。
ええと・・・妹が急に帰ってきて、
田中さんは、そういったご職業なんですか?
いいえ、忘年会の出し物でちょっと。マライヤキャリー、なーんて・・・。
マイリアキャリアーリー?
いいんですわからなければ。だからね、ビックリするでしょ、兄貴がいきなりこんな格好でいたら。
なるほど、って私のほうが驚きましたよ。
そうなんですけど、勝手に化粧品やら服やら使ったし、見つかったら怒られるし。
よくも私の下着の批判まで。
いや、なりきっちゃおうかな、逃げ切っちゃおうかな、なんーて・・・謝ります。すみませんでした。
お願いがあるんですけど。
はぁ・・・私のお願いは?・・・そろそろ限界なんですけど。
私を、女にして欲しいの。
えー、いくらサビシイからって、それはちょっと。
違います。私、明日お見合いなんです。ちなみに33回目。だから私をとびきりのいい女に変身させて欲しいの。あなたの素晴らしいメイキャップテクニックで。
ええと、無理っす。
あらそう。じゃあベランダからお帰りになって。ごめんくださいまし。
女、カラカラカラとベランダの戸を閉める。
ああ、わかったわかりました。こんなワタシでよかったら何でも協力するわ。
ムフ、な下着も一緒に買いに行ってくださる?
ええっ下着?
私の人生がかかってるんです。イヤなら別にいいんですよ。
カラカラカラ。
いい、行きます行きます、どこへでもお供しまーす。
どうぞお入りください。
あ、もう、限界かも・・・。
おわり