- もう風が冷たい
海は一人で秋の空の下、屋上でノートを開いて朗読
- 海
- 「血管は一本の弦です。ビィンとゆれ、その中通る血液は稲妻と似てる。体中をめぐってノドボトケへ集められ、そこからピカリと光はなってやっと口からこぼれるのです。冷たい空気震わすのです。だから、もっと震わせ冷たい空気に熱こもるまで。私が機能していることを知るために、大声上げてみるのです」あああああああああああああああああ。
- 楽
- あーーー。
- 海
- あー…こんなポエマーなこと言われても、よう分からんなぁー。
- 楽
- さよか。
- 海
- まー、確かに健康やないと大声でぇへんと思うなぁー。
- 楽
- さよか…。
- 海
- これ新作やったやんけ。
- 楽
- それが何で最後の作品になるねん。
- 海
- ごめん。
- 楽
- 何かあったら言えやー…って、いっつも言うてたのに。
- 海
- ごめん。
- 楽
- さむ。
- 海
- 風、強いから。
- 楽
- 高いわぁ、ここ。
- 海
- 屋上やもん。
- 楽
- ようやったなぁ。
- 海
- へへ。
- 楽
- あほか。
- 海
- ごめん。
- 楽
- なぁ、なんで?
- 海
- うん…
- 楽
- なぁ。ずるいわ。お前どうせずっとこれからだんまりやんけ。
- 海
- うん。
- 楽
- なぁ。
- 海
- 続き。新作の、続きあるねん。
- 楽
- へ?
- 海
- ノートの一番最後のとこ。
- 海がパラリとノートの最後をめくる
- 海
- 「ピカリと光って口からこぼれない…
- 楽
- 昨日まできれいにキラキラしてたのに、ノドボトケを、お腹を、頭を、心をぐいぐい押してはみたけれど、こぼれて出るのはガラリロガラリロ。どうやら少し壊れたみたい。
- 海
- またや。ポエマーすぎるねん。お前いろいろ考えすぎたから、
- 楽
- 海。
- 海
- 何?
- 楽
- 普通の音ってどんな音やと思う?
- 海
- ジャンルは?
- 楽
- 人。人が出す普通の音。私、ちゃんと音がでぇへんねんて。普通に喋られへん。
- 海
- 出てたよ。ちゃんと俺と喋ってたんやんか、あの日だって。
- 楽
- ううん。ぐってつまって。楽器なんやって。
- 海
- 楽器?
- 楽
- きれいな音が出るようにって。きれいな言葉が話せるようにって、楽器の楽。
- 海
- ええ名前やんけ。楽の名前。楽器の楽。
- 楽
- せっかくいい名前つけたったのにって。
- 海
- だから、
- 楽
- あー…あー…やっぱり出えへぇんよ。ガラガラ。ガラガラ、ガラリロガラリロ。普通の音ってどんな音やろ。ほら、少し、壊れたみたい。
- 屋上に風が吹いた
- 海 楽。
- もう楽は答えない
- 海 楽?
- もう楽は答えない、ただ風が吹いているだけ
- 海 楽!なぁ。ずるいわ。お前どうせずっとこれからもだんまりやんけ。なぁ。
- 海は屋上から下へと叫ぶ、あの日も、どうやって叫んでいたのかもしれない
- 海
- 「血管は一本の弦です。ビィンとゆれ、その中通る血液は稲妻と似てる。体中をめぐってノドボトケへ集められ、そこからピカリと光はなってやっと口からこぼれるのです。冷たい空気震わすのです。だから、もっと震わせ冷たい空気に熱こもるまで。私が機能していることを知るために、大声上げてみるのです」あああああああああああああああああ。
- いくら叫んでも、楽はもう答えない
屋上から叫ぶ海の声は木霊のように、街を漂う
それは、海の鳴き声だ
- おわり