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- 男、なにか熱心に書いている。レポートか? 明日提出する書類か?
ま、何でも良いんだけど。女、そのような男を気にしない。
- 女
- 線路に石があるでしょ。
- 男
- うん、あるね。
- 女
- あれ、見てたら怖くなったのね。
- 男
- ・・・ふーん。
- 女
- 「なんで?」って聞いて。
- 男
- 長い?
- 女
- 短い。
- 男
- なんで?
- 女
- 夜中に集まって来るのよ。
- 男
- え? なに?
- 女
- 夜中に集まって来るの、あれ。大きさとかだいたい揃ってるでしょ、あの石。
- 男
- 集まって来るって、なに?
- 女
- 大きさとか、揃ってるのね、だいたい。だから、おそらく「もうそろそろかな、俺」とか言って来るの。
- 男
- ・・へえー。
- 女
- 言ってみて。
- 男
- え?
- 女
- 「もうそろそろかな、俺」って言ってみて。
- 男
- 「もうそろそろかな、俺」
- 女
- 怖い。
- 男
- 忙しいんだよ俺。
- 電車の音。部屋のそばに線路でもあるのか。
静かになる部屋。
- 女
- ぞろぞろ集まって来るのよ。山という山から、もしくは川という川から。「もうろそろかな、俺」って思った石たちが。・・・ぞわぞわ。
- 男
- ぞわぞわ?
- 女
- じゃあ、ぞろぞろ。え? ぞろぞろとぞわぞわどっちが良い?
- 男
- ・・・ぞわぞわの方が気持ち悪いな。
- 女
- でしょ。だから言い換えてみたの。
- 男
- でも、ごろごろでしょ。石なんだし。
- 女
- ・・普通じゃない。
- 男
- だって石がぞわぞわって変だろ。硬いんだから、ごつごつしてるんだから、石は。
- 女
- 軟らかいの、その時だけ。移動する時だけは、適度に軟らかいの。
- 男
- 知ってるだろ。俺、今、忙しいの。
- 女
- 石は、長い長い道のりをやって来るの。
- 男
- ・・・
- 女
- 何日も何年もかけて。
- 男
- ・・誰か見るだろ。そんなに動いてたら。
- 女
- 敏感なの。人の気配がすると石みたいになるの。緊張して、石みたいに。
- 男
- ・・石なんだろ。
- 女
- 緊張しいなのね。
- 男
- ・・・(石なんだろ。)
- 女
- すり減って、すり減って。たどり着けない石もいるわ。それは、道端の砂になるの。小さくなりすぎたのね。それで、ゴウンゴウンって掃除されるの。
- 男
- ゴウンゴウン?
- 女
- 夜中にやってるじゃない。車の下にブラシ付けたけたやつが。
水出して、ブラシ回して。
- 男
- じゃ、掃除好きのおばさんに(箒ではかれたり・・)
- 女
- 自分がなにをしてたか忘れちゃう石もいるわ。長い移動を続けてるうちに忘れちゃうの。
- 男
- 雨で流され(ちゃう石も・・)
- 女
- その石は海を見るの。忘れて、移動してるうちに、海に出ちゃうの。誰もいない海。夜中に、月だけが輝く海を見るの。ザザーン、ザザーン
- 男
- ・・・
- 女
- そして思うの
- 男
- ・・・
- 女
- そして海を見た石は思うの
- 男
- ・・・
- 女
- ・・石は海を見てなんて思うんだろう?
- 男
- 着いたって思うんじゃない? ・・やっとたどり着いたって。
- 女
- うん。
- 男
- まだ怖い?
- 女
- ううん。あと、お正月の餅に乗ってるみかんあるでしょ。あれの茎のとこに付いてる葉っぱなんだけど。あるじゃない、ね。何段にもなってる餅の上に・・・
- 電車。女の話をかき消すように
- おわり