- 朝。
ワンルームマンション。
妻は、先に起きて身支度をしている。
トイレから、夫の小便の音。
- 妻
- ちょっちょっ。……ドア閉めて。
- 夫
- ああ……。
- ドアを閉める音。
水洗の音がして、夫、トイレから出てくる。
- 夫
- (うれしそうに)聞こえてた?
- 妻
- 聞こえてた。すんごい不愉快な朝だったから。
- 夫
- ああ。
- 妻
- ……何か、食べてく?
- 夫
- ああ、軽く入れてく。何か、シリアル的な……。
- 妻
- ああ……。
- 食器棚から、皿を出す音。
冷蔵庫を開ける音。
- 妻
- 届いてた。
- 夫
- え?
- 妻
- それ。
- 夫
- ああ……(にわかにテンションあがって)おー。これ俺の背番号?
- 妻
- その封筒の中に、書いてあるから。
- 封筒を開ける音。
- 夫
- おー、何?今日から?
- 妻
- 今日から。
- 夫
- これだ。
- 妻
- (読んで)「125698843。」
- 夫
- いいねえ。何か、ちょっと嬉しいねえ。
- 妻
- あー。
- 夫
- 反対してたけど、もらってみると、まんざらでもないねえ。何かやっぱ、番号もらえると、基本的に嬉しいんだな。人は。
- 妻
- 受験票とか。
- 夫
- 受験票とか。学生証とか。
- 妻
- あー。
- 夫
- いいねえ。こうなんか、日本人全員が、1つのチームみたいな。
- 妻
- アンタ、野球好きなだけじゃん。
- 夫
- お前、何番?
- 妻
- 私は、(読んで)「87344568。」
- 夫
- お前、8ケタなんだ。
- 妻
- (得意げに)8ケタ。
- 夫
- 何で俺、9ケタなんだよ。
- 妻
- 知らないけど。
- 夫
- 何これ。差別?
- 妻
- 差別じゃないでしょう。
- 夫
- ちょっと、ちゃんとして、政府。っていうか俺遅くない?
- 妻
- え?
- 夫
- 1億2千って、なんか、日本の人口ぐらいの番号だろう。
- 妻
- あー。なんかつける基準とかあんのかなあ。
- 夫
- ……お前これ、シリアル少ないだろう。
- 妻
- ごめん、買い忘れてた。
- 夫
- 買い忘れてたって、分かるだろう。残量で。
- 妻
- だから、忘れてたの。
- 夫
- あー……。ちゃんとして。お前も、政府も。
- 妻
- はーい。
- 夫
- 大体、粉しかないじゃん。
- 妻
- ……この番号って、どうしたらいいのかなあ。
- 夫
- あー。
- 妻
- 覚えたりとか。
- 夫
- 別に何か、使うことないだろう。こうなんか、どっかで誰かが管理してる、みたいな。そういうアレだから。
- 妻
- そっか。
- 夫
- そういう、性質の番号だから。それよりお前、何かないの。
- 妻
- ああ……。
- 夫
- シリアルに変わる、なんかシリアル的な……。
- 妻
- (思いついて)リッツは?
- 夫
- リッツお前、全然違うだろう。
- 妻
- 一緒じゃん。
- 夫
- 一緒ってことないだろう。クラッカーだろう。
- 妻
- 牛乳かけたいの?
- 夫
- まあ、そういう感じだよ。
- ・
・
・
- 平凡な会話が続いていく。
- END。