- 男
- 人生で、真に愛する人は三人現れるそうだ。誰が言ったか、また、この言葉が事実であるのかボクは知らない。ただボクは彼女以上に・・・いや、やめておこう。ボクの彼女に対する感情は深くて、激しくて、取り止めがない。
- 女
- お願いがあるの。
- 男
- ボクは彼女の奴隷、彼女の歓心を得るならばこの命だって差し出せる。
- 女
- 穴を掘って欲しいの。
- 男
- 穴?
- 女
- それは深くて大きな穴よ。いい?
- 男
- もちろんさ。彼女の為なら象だって入れるくらいの穴を掘ろう。
- 時計の秒針の音が聞こえる。カチコチカチコチ。
- 男
- 先生、そうやってボクは延々と彼女の為に、穴を掘り続ける夢を見るのです。
- 女
- それが毎日ですか。
- 男
- ええ、次第に穴は深く大きくなっていく。そして昨夜、ボクは彼女に埋められてしまったのです。
- 女
- 埋められたって?
- 男
- 彼女が掘り返した土を穴に埋め戻していくのです、ボクは穴の中から止めてくれと叫ぶのですが、何故だかボクの声は彼女に届かなくて・・・。先生これは一体何を表しているのでしょう?
- 女
- 駄目じゃないの。
- 男
- 何が駄目なのです?
- 女
- 勝手に出てきちゃ。
- 男
- あの、先生?
- 女
- 知ってたわ。穴の中にあなたが居るって事くらい。
- 男
- 君は・・・。
- 女
- 折角埋めてあげたのに。折角悲しんであげたのに。
- 男
- けどボクは君と生きていきたいんだ。
- 女
- 早く穴に戻るのです。
- 男
- それは夢の話で、
- 女
- さあ、早く穴に戻るのです。
- 時計の秒針の音が聞こえる。カチコチカチコチ。
- 男
- そうやって、その先生というか、その女に追い詰められて、もう一度埋められてしまうんだ。
- 女
- それは恐ろしい夢ね。
- 男
- ちなみに、女は二人とも君にそっくりなんだけどね。
- 女
- ひどい。私はそんな事しないわ。
- 男
- そうだね。
- 女
- ・・・今何時?
- 男
- どうして?
- 女
- 朝が来る前に帰らなくちゃ、
- 男
- 帰るって、ここは君の家だろ。
- 女
- いいえ。
- 男
- どこにも行かないでくれ、君が居なくちゃ駄目なんだ。
- 女
- 帰るのはタダシさん、あなたよ。
- 男
- え?
- 女
- 死んだの、あなたは。
- 男
- ボクは死んだのか?
- 女
- 明日も仕事なの、少しは眠らせて。
- 男
- ねぇ、ボクは死んだのか?
- 女
- 少なくとも私の中ではね。
- 男
- それはどういう意味なんだ?なぁ、答えてくれ、おい、寝るなって。聞いてくれ、ボクは君と生きていきたいんだ・・・。なぁ、おい、おいって、頼むからさぁ・・・。
- 女
- 目覚まし時計の音が聞こえる。
- 女
- おはようタダシさん。あら、もう起きてたの。
- 男
- ああ。
- 女
- どうしたの顔色悪いわよ。
- 男
- とても悲しい夢を見たよ。
- 女
- どんな夢?
- 男
- ・・・ううん、言わないでおく。本当になってしまうと怖いから。
- 女
- そう・・。あ、ねえ、お願いがあるんだけど。
- 男
- ・・・・。
- 終わってまた始まる