- 屋根を突き破るものすごーく大きな破壊音。ドンガラガシャーン!!
四畳半の部屋の真ん中に、瓦礫と共にシュワッチの格好で立っている男がいる。
- 男
- おこんばんは。
- 女
- だ、誰よあなた。何?何で?何なのよ。ウッソー、屋根、穴あいてる。
- 男
- よばれて飛び出てジャーン、ジャジャーン。
- 女
- 呼んでない、全然呼んでない。
- 男
- お嬢さん驚かせてスンみません。私はヘニャロペデロ国の王子、ヘニャロロと申します。実はとっても悪い奴に追われてるの。大ピンチなわけ。ほんのしばらく、ここにかくまってほしいの。
- 女
- ちょっと何、こっち来ないでってば!助けて、おとーさーん、おかーさーん!
- 男
- シっ!
- 女
- シってなによ。
- 男
- お嬢さん、あちらをご覧ください。
- 女
- へ?・・・あーもう、どうしてくれんのよあんな大きな穴あけちゃって。だいたいあなたどこから落ちてきたの?隣のマンション?・・・あ、ひょっとして泥棒?
- 男
- 屋根のもっとムコウを見てちょうだい。夜空にキラリと光るあの青いお星様からワタシ来ましたのです。
- 女
- 星なんか一つも見えないわよ。
- 男
- ああ、人間の肉眼では無理なのですね。見えないけれどあるんだよ、とジャパニーズ、フェイマスト詩人もおっしゃっているじゃあ、あーりませんか。
- 女
- 何言ってんだか全然わかんない。
- 男
- すまんすまん翻訳機の調子めっちゃ悪いねん。
- 女
- どこ、何処に翻訳機なんかあるのよ。あなた自分が人間じゃないとでも?
- 男
- はい。
- 女
- は?
- 男
- 疑ってますね。
- 女
- まったくこれっぽっちだって信じられない。
- 男
- じゃあ信じなくてけっこう。
- 女
- え?・・・ちょっとぐらい信じさせてみなさいよ。
- 男
- 真実はワタシさえ知っていればいいのです。
- 女
- 宇宙人は、なんか特技とかないわけ?
- 男
- そんな、ワタシこれといって取り柄のない普通の宇宙人なんでぇ。
- 女
- 謙遜とかいいから、証拠見せなさいよ。
- 男
- じゃ、ユビ再生してみせっから、そこのハサミ貸しな。
- 女
- いやよ、そんなグロテスクな特技見たくない。
- 男
- ったくわがままな方ですね。
- 女
- どっちの存在がわがままなのよ、あなたよ、絶対。
- 男
- 仕方ないですね・・・ではとっておきのをひとつ・・・。
- 女
- 何?
- 男
- もうすぐ、そこの電話の子機が鳴ります。
- 女
- だから?
- 男
- 予言です。
- 女
- 電話はいつか鳴るわよ。そんなインチキ占い師みたいな事言ったって騙されないんだから。
- 男
- 電話の相手はあなたのお母上です。あなたはお母上と話をします。そしてあなたは40日振りに、この部屋から出て行くでしょう。
- 女
- え?
- 男
- あなたさっき恐怖を感じた時、呼びましたね。お父さんお母さん、と。
- 女
- ・・・呼んだけど、それは、
- 男
- 憎んではいけません。自分にこもっていてはいけません。真に戦うべきは己なのです。早く目を覚ましなさい。・・でないと星が滅びてしまいますよ。
- 女
- えっと、あの・・・。
- 子機が、鳴る。
- 男
- 出たらいかがですか?
- 女
- ・・・(子機をとり)もしもし・・・
- 男
- あなたのキオク、少し編集させていただきますね。
- 修復の音が聞こえる。
そして男は再びシュワッチのポーズで空へと飛び立つ。破壊された瓦礫と共に。
- 女
- 叫んでた?私が?・・・ううん別に。変な夢をみただけ。じゃ・・あ、あのね母さん・・・・明日の朝ごはん、ちゃんとキッチンに行って食べるから・・・うん、おやすみなさい・。
- 終わってまた始まる