- オス
- これは誰にも喋ったことない話なんだけど
- メス
- うん
- オス
- 僕が子供の頃、近所に山があってね。よくそこで遊んでたんだ。その日もその山でみんなと遊んでいて気がつけばもう陽が暮れはじめていて、慌てて帰ることにした。僕の家だけそこから山の反対側にあったから、いそいで山沿いに走り出したんだ。辺りはもう暗くなっててこれは怒られるなって思っていたら、山に穴があいててね
- メス
- 穴?
- オス
- そう、穴。ほら穴。もしかしたら反対側にでられるかもしれないと思ってなかに入ったんだ。だって近道になるしね。
- メス
- 怒られなくてすむものね。
- オス
- そう。その穴はずっと奥まで続いてて真暗で怖かったけど僕はなんとか反対側に出ることが出来た
- メス
- 怒られなくてすんだ?
- オス
- うん
- メス
- よかったじゃない
- オス
- でも家に帰ってふと思ったんだ
- メス
- 何を?
- オス
- 僕は人間だったんじゃないかって
- メス
- え?
- オス
- あのほら穴をくぐりぬける前、僕は人間だったんじゃないかって
- メス
- 人間って、あの人間?
- オス
- そう
- メス
- あなたが?
- オス
- うん
- メス
- どうしてそう思うの?
- オス
- いや……。何となくだけど
- -メスは笑う-
- オス
- だから今まで誰にも話してないんだ。
- メス
- でもよかったじゃない。人間だったら私と出会えてなかったのよ
- オス
- そうだね
- メス
- カマキリだからこそ、私と出会えた
- オス
- うん
- メス
- 嬉しい?
- オス
- うん
- メス
- じゃ、喰べるね
- オス
- 立派な子供を産んでね
- メス
- まかせといて
- -メスはオスの足を喰べる-
- オス
- イテッ!!
- メス
- じっとしててよ
- オス
- もっとゆっくり、いやいっそひと思いに…
- メス
- 怖いの?
- オス
- 怖くないよ
- -メスは再びオスを喰べる-
- オス
- ちょ、タンマ!!
- メス
- 何よ「ちょ」って
- オス
- 「ちょっとタンマ」の「ちょ」
- メス
- 早く喰べさせてよ
- オス
- やっぱおかしい、何で喰べるの?
- メス
- アイアイアイ
- オス
- 気安く連呼するな
- メス
- 私のこと愛してないの
- オス
- その前に俺の人権はどうなる
- メス
- カマキリだって
- オス
- 人道的見地から言ってこんな残虐行為は許されるはずが…
- メス
- だからカマキリだって
- オス
- 「早く人間になりたーい」って叫ぶ人達のお話を昔みたことあるような
- メス
- 眼球の裏の軟骨がおいしいらしいのよ
- オス
- リアルなこと言うな!!
- メス
- わからないわよ。人間とカマキリどっちが幸せかなんて
- オス
- 絶対に人間の方がいい。少なくともオスに関しては。
- メス
- 御免!!
- -メスは「くの一」の如くオスに飛びかかる
- -オスは悲鳴をあげた後、絶命
- メス
- あんまりおいしくない
- 合掌