- 雪山。
吹雪の音。
- 男
- ……ちょちょ。
- 女
- ん?
- 男
- あれ……ネッシーじゃない?
- 女
- (笑って)ネッシー?
- 男
- ほらほら、あの湖のあそこ。……ちょっと一見、島みたいに見えるけど。
- 女
- ……あ。
- 男
- ネッシーだよなあ。
- 女
- ……ネッシーだ。
- 男
- その、ここがネス湖ではないけどさあ。
- 女
- (興奮して)ネッシーだよ!ネス湖とか関係ないよ、えー!
- 男
- やばいよなあ!ちょっと、カメラカメラ!
- 女
- ああ!(取り出す)
- 男
- これちょっと、とんでもないスクープ写真なんじゃないの?
フラッシュ炊いたほうがいいかなあ。……ちょっと、早く貸せよ。
- 女
- ……あれさあ。
- 男
- え?
- 女
- 雪男じゃない?こっちの茂み。
- 男
- ……ああ。
- 女
- ……何か一見、さきもりみたいに見えるけど。
- 男
- 雪男だ。
- 女
- だよねえ。
- 男
- (興奮して)あのたたずまいは、間違いなくそうだよ。ってことはこれ、2匹いんの!?
- 女
- 未確認生物が!
- 男
- やっベー!何この状況。(女に)カメラカメラ。
- 女
- ああ。
- 男
- (うれしそうに)どっちから撮ろう。
- 女
- 早く撮りなよ!
- 男
- ……ていうか、お前これ、残り、1枚しかないじゃん。
- 女
- ああ!
- 男
- 代えのフィルムは?
- 女
- ない。
- 男
- お前……!
- 女
- どうしよう……。
- 男
- 何やってんだよ!なんで残しとかないんだよ!
- 女
- しょうがないじゃん!そんな2匹も同時にいると思わないし。
- 男
- っていうかそりゃ、1匹すらいるとは思わないけど。ってことはこれ、どっちか選ばなきゃいけないの?
- 女
- ってことだよねえ。
- 男
- えー、(考えて)何この選択。
- 女
- とりあえず、ここはやっぱ、雪男じゃない?
- 男
- いや、ネッシーだろう。
- 女
- マジで?
- 男
- 何かこう、ビジュアル的なインパクトで。
- 女
- だけど、雪男も捨てがたくない?
- 男
- いやだからそりゃ捨てがたいけど、とりあえずどっちか選ばないといけないから。
- 女
- あー……。
- 男
- 片方は捨てなきゃいけないから。もうだからここは、身を切る思いで。
- 女
- (思いついて)これは?ロングでとって、2匹同時にいれる。
- 男
- あー……。
- 女
- こう、ネッシーと雪男を、ワンショットで。夢の競演!
- 男
- いや……遠くない?
- 女
- ちょっと遠いけど。
- 男
- これ豆粒みたいになるだろ。やっぱどっちかに絞っていかないと。
- 女
- (見て)だけどほら!雪男が、湖の方に向かって、歩き始めた。
- 男
- おお!
- 女
- ……ほらほら、近づいてんじゃん。
- 男
- 歩いてる歩いてる。その調子だ!
- 女
- もっと近づけ!ワンショットに収まれ!
- 男
- (見て)だけど、なんかだんだんネッシー、微妙に遠ざかってない?
- 女
- ああ!
- 男
- こうほら、なんか雪男から逃げるように……。
- 女
- 何で?
- 男
- おい、動くなよ!止まれ!
- 女
- 止まれ!
- 男
- ネッシー!
- 女
- 止まった!
- 男
- これでお前、雪男が近づけば!……(見て)雪男なんで座ってんだよ!
- 女
- もう!
- 男
- なんでくつろいでんだよ!
- 女
- 雪男!
- 男
- 立てよ!歩けよ!近づけよもっと!
- 女
- (見て)っていうか、なんかだんだんネッシー、沈んできたよ。
- 男
- マジで?
- 女
- ほら!
- 男
- いやだけど、だんだん雪男が立ち上がりつつあるんだよ。
- 女
- だけど、沈むって!
- 男
- 立ち上がった!早く歩け!ネッシーと距離を縮めろ!
- 女
- 沈ーずーむー!
- 男
- あと10メートル!7メートル!
- 女
- 早く!やばいって!
- 男
- だから止まんなよ!
- ・
- ・
- ・
- END