- 男
- ボクが世界中で一番行きたかった場所。夢にまでみたその場所にボクはもうすぐ足を踏み入れようとしている。ハ-(息を吐き)口の臭い、オッケー!髪型(カガミをチェック)オッケー!そう、今日ボクは彼女の部屋に招待されたのだ。
- チャイムの音。
そしてインターフォンから聞こえる声。
- 女
- はい。
- 男
- ハヤシバです。
- 女
- ハヤシ?
- 男
- あの・・・マリちゃん、だよね。
- 女
- ひょっとして、リュウちゃん?
- ドアが開く。
- 女
- いらっしゃい。
- 男
- キミ、誰?
- 女
- アタシ?アタシはコユキ。立ち話もなんだし、入ってよ。
- 男
- はぁ。
- 女
- マリの友達でしょ。
- 男
- いや、
- 女
- 違うの?
- 男
- ああ、まあ友達っていうか、まだ友達の域を出てないっていうか・・・
- 女
- やっぱり。
- 男
- な、なんですか。
- 女
- べーつに。リュウちゃんもビール飲む?
- 男
- 昼間っから?
- 女
- ヤならいいけど。
- 男
- いやぁ、好きです昼間のビール。
- 女
- (缶ビールをさし出し)はいどうぞ。
- 男
- (受け取り)どうも。微妙に良心の呵責を感じつつ、(プシュッとビール開け)口にするビールのほろ苦さ、(ゴクっと飲む)ああ、もう最高!
- 女
- (独り言)飲まなきゃやってらんないわよ。
- 暗いオーラをムンムンとはなつコユキ。
- 男
- コユキさん、でしたっけ?
- 女
- なに?
- 男
- マリちゃんはどこです?
- 女
- 消えた。
- 男
- はい?
- 女
- アナタの愛しいマリちゃんは、アタシの愛しい彼とどっかに消えちゃいました。
- 男
- え?
- 女
- ま、そういうこと。
- 男
- どういうことです?
- 女
- ここはアタシの家。居候してた彼と、同じく居候してたマリがくっついて、二人仲良く出てったってわけ。
- 男
- ハハハ、そんな大掛かりな冗談をこの短時間でよく思いつきますね。あ、ひょっとしてマリちゃんとグルでサプラーイズ!なーんて出てくるんでしょ。
- 女
- どこまで能天気なのよ、信じられない。
- 男
- またまたそんな怒ったフリしちゃって、ボクは騙されませんよ
- 女
- いい加減目を覚ましなさいよ。ほら、これマリからのお手紙。(読む)「リュウちゃんへ、今まで色々ありが、
- 男
- ちょっと勝手に読まないでくださいよ。
- 男、手紙を奪い取る。
- 男
- 「リュウちゃんのおかげで、マリは本当は誰が好きなのか気が付きました。ごめんね。彼と幸せになります」・・・。
- 女
- あのジコチュウ女。ホント最低よ。
- 男
- ・・・。
- 女
- ごめん・・・。
- 男
- いや。
- 女
- アタシ無神経だよね。
- 男
- コユキさん・・・。
- 女
- はい。
- 男
- ビールまだある?
- 女
- うん。
- 男
- 飲んでもいいかな?
- 女
- アタシも飲むー。こんなのって、こんなのって、もう飲むしかないよね。
- 男
- 泣きそうになりながら無理に微笑むコユキさん。ボクの心臓は再び脈を打ち始めた。運命ってなんていたずらっ子。キミに会うためにこんな遠回りさせるなんて。
- 見つめ合う二人。男は、女の手を握る。
- 女
- あーっ!マリ、この男、あたしの手握ったよ。
- 男
- はい?
- 女
- お帰りはあちら。惜しかったね、もうちょっとの我慢だったのに。
- 男
- そんなのって、そんなのって、ありー?!
- 男の背中ごし、無情にドアは閉ざされる。
- 終わってまた始まる