- 敵のアジトの前。
風の音。
- 男
- (声を潜めて)……やるか。
- 女
- (声を潜めて)……うん。
- 男、設計図を広げる。
- 女
- っていうか、あれって、ホントに敵のアジト?
- 男
- いや、アジトだろう。
- 女
- ああ……。
- 男
- 本部がそう言ってんだから。
- 女
- そっか。
- 男
- ……とりあえず、建物の周囲から、グルーッと、仕掛けていって。
- 女
- OK。
- 男、設計図をたたむ。
- 女
- ……今、行けるかなあ。
- 女、様子をうかがう。
- 男
- ……っていうか、何でそう思った?
- 女
- え?
- 男
- その、アジトじゃないって。
- 女
- ああ……なんとなく。
- 男
- なんとなく?
- 女
- こうほら、もしアジトじゃなかったら、嫌だなーって。
- 男
- それだけ?
- 女
- それだけ。
- 男
- いや、嫌だけど……。
- 女
- (笑って)アジトだよねえ。
- 男
- うん……。
- 2人、機をうかがう。
- 男
- ……どっからの情報だっけ。
- 女
- ああ、009号が、暗号を解読したら、書いてあったって。
- 男
- ああ……009号。
- 女
- こうなんか、マイクロフィルムの。
- 男
- ……009号な。
- 女
- ……たまーに、やらかすよねえ。
- 男
- (考えて)一応、確認とってみよっか。
- 女
- 本部に?
- 男
- うん。いやなんか、俺もアジトじゃないように思えてきたからさあ。
- 女
- なんて聞くの?
- 男
- まあ、「これってアジトですよねえ?」みたいな感じで。
- 女
- やばくない?
- 男
- ああ……やばいか。
- 女
- 本部の命令は、絶対なんだから。
- 男
- ああ……。
- 男、不安になる。
- 女
- (笑って)っていうか、アジトだって。
- 男
- (笑って)そうだよな。
- 女
- アジトアジト。絶対アジト。
- 男
- 本部がそういってんだもんな。
- 女
- うん。仮に、アジトじゃないとしても、……
- 男
- っていうか、アジトだよ。アジトっぽいし。
- 女
- ああ……
- 男
- お前がそうやって変なこというから、感情揺らいじゃったじゃねえかよ。
- 女
- ごめん。
- 男
- その、冷徹な、氷のようなアレで行きたいのに……。
- 女
- アジト。間っ違いなくアジト。やろう。本部のいうことは絶対なんだから。
- 男
- ああ……。
- 2人、機をうかがう。
- 男
- ……犬飼ってるなあ。
- 女
- ……番犬かなあ。
- 男
- にしては、あんまり、強そうじゃないよなあ。
- 女
- え?
- 男
- なんかこう、ドーベルマンとか……。
- 女
- だから、そこが、逆にアジトなんじゃん。
- 男
- ああ……。
- 女
- ドーベルマンなんて飼ってたら、アジトってバレバレだし。
- 男
- そっか。……これ全体が、アジト?
- 女
- うん。この建物全体が、アジト。
- 男
- ああ……一見普通のビルにも見えるけど、
- 女
- アジト。
- 男
- (躊躇して)……俺やっぱ、本部に聞いてみるわ。
- 女
- え?
- 男
- なんか、(コンセントレーションが)乱れた。こう、うまい感じで。
- 女
- 大丈夫?
- 男
- うん。(受信機に)あー、もしもし。本部ですか。004号ですけども。……今、はい。アジトの前まで来てまして、え、このなんか、古びたビルがそうですよね?……(笑って)ええ。それは大丈夫なんですけど、……はい。何で、今から作戦を開始しますという……
- 女
- (男の話にかぶせて)窓あいたよ?
- 銃声が2発。