敵のアジトの前。
風の音。
(声を潜めて)……やるか。
(声を潜めて)……うん。
男、設計図を広げる。
っていうか、あれって、ホントに敵のアジト?
いや、アジトだろう。
ああ……。
本部がそう言ってんだから。
そっか。
……とりあえず、建物の周囲から、グルーッと、仕掛けていって。
OK。
男、設計図をたたむ。
……今、行けるかなあ。
女、様子をうかがう。
……っていうか、何でそう思った?
え?
その、アジトじゃないって。
ああ……なんとなく。
なんとなく?
こうほら、もしアジトじゃなかったら、嫌だなーって。
それだけ?
それだけ。
いや、嫌だけど……。
(笑って)アジトだよねえ。
うん……。
2人、機をうかがう。
……どっからの情報だっけ。
ああ、009号が、暗号を解読したら、書いてあったって。
ああ……009号。
こうなんか、マイクロフィルムの。
……009号な。
……たまーに、やらかすよねえ。
(考えて)一応、確認とってみよっか。
本部に?
うん。いやなんか、俺もアジトじゃないように思えてきたからさあ。
なんて聞くの?
まあ、「これってアジトですよねえ?」みたいな感じで。
やばくない?
ああ……やばいか。
本部の命令は、絶対なんだから。
ああ……。
男、不安になる。
(笑って)っていうか、アジトだって。
(笑って)そうだよな。
アジトアジト。絶対アジト。
本部がそういってんだもんな。
うん。仮に、アジトじゃないとしても、……
っていうか、アジトだよ。アジトっぽいし。
ああ……
お前がそうやって変なこというから、感情揺らいじゃったじゃねえかよ。
ごめん。
その、冷徹な、氷のようなアレで行きたいのに……。
アジト。間っ違いなくアジト。やろう。本部のいうことは絶対なんだから。
ああ……。
2人、機をうかがう。
……犬飼ってるなあ。
……番犬かなあ。
にしては、あんまり、強そうじゃないよなあ。
え?
なんかこう、ドーベルマンとか……。
だから、そこが、逆にアジトなんじゃん。
ああ……。
ドーベルマンなんて飼ってたら、アジトってバレバレだし。
そっか。……これ全体が、アジト?
うん。この建物全体が、アジト。
ああ……一見普通のビルにも見えるけど、
アジト。
(躊躇して)……俺やっぱ、本部に聞いてみるわ。
え?
なんか、(コンセントレーションが)乱れた。こう、うまい感じで。
大丈夫?
うん。(受信機に)あー、もしもし。本部ですか。004号ですけども。……今、はい。アジトの前まで来てまして、え、このなんか、古びたビルがそうですよね?……(笑って)ええ。それは大丈夫なんですけど、……はい。何で、今から作戦を開始しますという……
(男の話にかぶせて)窓あいたよ?
銃声が2発。