梅子
アチシ、梅子。小松原梅子と申します。オサゲの似合う十五歳。
つつましくも清らかな毎日を港町三丁目で送ってます。
SE■汽笛・ポー…

梅子
あら、浮かれた汽笛。あの音色、あれは昭治さんだわ。
SE■汽笛・ポー…

梅子
あの方最近恋に浮かれてらっしゃるの。
だからオツムの中までポッポのポ。
アチシ、オヨシナサイって言ったのよ。
だって相手はあのヨウコさん。
真っ赤なマニキュア、真っ赤なルージュ、
きっとネグリジェまで真っ赤だわ。
オヨシナサイ、昭治さん。手酷い火傷するだけよ。って言ったらね。
昭治
そげんことなか。ヨウコさんは清らかたい。純白たい。
白いブラウスの似合う港の女たい。
梅子
マア。節穴!そのつぶらなオメメはキチンと開いてらっしゃるの?
夜ともなれば、アタイ男の灯台ヨとばかりに
煙草片手に立ってる女なんだから。
昭治
人違いたい。第一あの人煙草吸えんもん
梅子
惚れた人の前じゃ女は煙草吸わないの!ってママが。
昭治
ッカー…惚れた男!それオイドンの事たいね!
梅子
ちっちが
昭治
そうか、やっぱり惚れとるか。そうかそうか。
梅子
ちがうもん!あの人は!
昭治
梅ちゃん…。たとえようこさんが、真っ赤なネグリジェでも、
オイドンは気にしねえ。
こんなケチな野郎の前で、あの人こういうんだ。
ショウちゃん、いつかアタイを連れてこっから逃げてね。
爪も唇も、赤いのがポロポロはげた、明け方五時だ。
水平線から顔を出す、でっけえ朝日おがみながら、そういうんだよ。
梅子
昭治さん
昭治
ザザアと波が来てよ、カモメが鳴く、
そんなかでオイドンは朝イチの船を出す。
ようこさんは、手をふり見送ってくれると。どげん朝でもたい。
ショウちゃーん…海辺に遠く、ちんまくなってく姿が哀しくてよ。
…アア、連れて逃げてえナア
オイドン、連れて逃げてえんだ。梅ちゃん。なあ、梅ちゃん。
SE■汽笛・ポー…
SE■海の音、カモメも鳴いている
梅子
あたし、梅子、小松原梅子。今年で花の十六歳。
初日の出を拝みに、一人港に来てみたら、
正月そうそう一隻の、小さな漁船がキラキラと、輝く波間に浮かんでいたの。
SE■汽笛・ポー…
梅子
浮かれた汽笛、あの音色、あれは…。
SE■・カモメ
梅子
梶を取る昭治さんの側で、白いブラウスの女の人が、
コッチに向かって大きく大きく手を振っておりました。
その後におっきなおっきな初日の出。(パンパン)
サヨナラ、昭治さん、
アタシッ、…あんたヨウコの何なのさって聞かれたら、恋敵と答えるの!
…これが梅子、十六歳の年明けだったの。
SE■汽笛・ポー…