- 部屋に、男と女。
除夜の鐘が聞こえる。
大晦日である。
女は、鐘の音を一つずつ数えている。
- 女
- (鐘を数えて)……65。……66。……67。
- 男
- ……あと3分かあ。
- 女
- うん。……68。……69。
- 男
- ……これってさあ、年内に全部鳴らすんだっけ。
- 女
- んー、正確には、12時までに、107回鳴らして、で、年明けに、最後の1回。
- 男
- あー、そうなんだ。
- 女
- うん。(数えている)
- 以降、女は喋ったりしながらも、鐘を数える。
- 男
- ふーん。……にしても、2004年かあ。
- 女
- うーん。(数えている)
- 男
- 何かもう、すっかり未来の年号って感じだよなあ。
- 女
- あー。(数えている)
- 男
- こう逆に、世の中の方が追いついてないって、いうか。
- 女
- (制して)ちょ。
- 男
- え?
- 女
- 気が散る。……(数えている)
- 男
- ……お前、何でそれ数えてんの?
- 女
- え?
- 男
- さっきから。
- 女
- (数えながら)なんでってことないけど、こう何か、自分の中の煩悩をやっつけるみたいな。
- 男
- あー。
- 女
- 一つずつ。(数える)
- 男
- 煩悩全部知ってんの?
- 女
- 知らないけど、もうだからちょっと、うるさい。(数える)
- 男
- は?
- 女
- 何となくこう、清められていく感じがするじゃん。
- 男
- あー、鐘の音によって?
- 女
- うん。新年を迎えるべく。……(数えている。)
- 男
- ……今、何どきだい?
- 女
- は?
- 男
- 時そば。
- 女
- ちょっと、分かんなくなったじゃないよ!
- 男
- いやいや、●回だよ。
- 女
- ああ……。(数える)
- 男
- 何でひっかかるんだよ。
- 女
- 邪魔しないでよ。……(数えている)
- 男
- っていうかこれ、間に合うの?
- 女
- え?
- 男
- 今だって、これで●回だろ?
- 女
- うん。(数える)
- 男
- あと●秒だもん。
- 女
- (気づいて)ああ。
- 男
- 大体、●秒で1回のペースで行かないと、
- 女
- ホントだ。年内におさまんないよねえ。(数える)
- 男
- うん。ていうかこれ、速くなってない?
- 女
- え?
- 鐘の音のペースがやや上がっている。
- 男
- ……(聞いて)ほらほら。
- 女
- (数えつつ)!
- 男
- 明らかにこれ、テンポ早くなってるよ。
- 女
- ホントだ。
- 男
- (笑って)ほらほら。
- 女
- ペース配分間違ったのかなあ。(数える)
- 明らかに鐘のペースがさっきより早い。
- 男
- 坊主もう、あせりまくってんじゃん。あと30秒。
- 女
- (数えている)。
- 男
- (笑って)もうこれ、さっきの倍ぐらいになってんじゃん。
- 女
- (数えつつ)納まるかなあ。
- 男
- 帳尻合わせようとしてるけど・……あと15秒。
- 女
- (数えている)
- 男
- 10秒。もうエイトビートじゃん!間に合う?
- 女
- (数えて)102、103、……
- 男
- (カウントダウン)5、4、3、2、1!
- 女
- (数えて)107!
- 2人、ため息とともに拍手。
坊主の健闘をたたえる。
- 男
- おめでとう。
- 女
- おめでとう。
- 男
- よくやった。
- 女
- 頑張った。うん。
- 男
- 明けましておめでとう。
- ・
・
・
108つめ、鳴る。
- END