舞台は居酒屋。店の隅の方の席に若い夫婦が座るところから始まる

夫

生ちゅうふたつ。あー久しぶりやな

妻

なんでかってに仕事やめたの

夫

…いきなりかよ

生ちゅうが二つはこばれてくる

夫

お、きたきた、（店員に）ありがとう。ほら、とりあえずのもうぜ

妻

私明日仕事早いんですけど

夫

なにをおこってるねん

妻

真剣にきいてよ

夫

（店員に）すいませんこの「ピノッキオのノビノビソーセージ」と「メアリィーおばさんのことことシチュウ」それから「与作の拳骨やきおにぎり」おねがいします。

妻

…

夫

え、これでよかった？

妻

いいよ

夫

（店員に）じゃぁとりあえずそれでお願いします。…で、真剣になに？

妻

…私はあなたと夫婦なんです。生活をともにしているんです。それなのに、なにがあったかしらないけど、勝手にしごとやめてきたって言うのはひどくないですか？

夫

わかる

妻

相談してってことをいいたいの。

夫

…わかる

妻

なんで私に相談してもしてもしようがないとか思ったの？それともあれ私はただあんたについていけばいいってことなの？

夫

わかる

妻

…なさけない

料理がくる

夫

あ、すいません。あ、ここおいてください。（妻に）お前このかばんどけろ、あーおいしそう、あ、追加いいですか？忙しかったらいいですけど、あ、それじゃ、この「手羽先ムーチョ」ってなんですかね、あ、手羽先のなかに、ムーチョがはいってる、あーなるほど、じゃぁこの手羽先ムーチョひとつ、はいお願いします

妻

ムーチョってなによ

夫

わからん

妻

店員さんには腰が低いな

夫

…居酒屋か…

妻

なによ

夫

別に

妻

今度は居酒屋？

夫

…

妻

絶対続かへん。計画性まるでなし

夫

…うん

妻

二十五日どうするのよ

夫

…

妻

妹の結婚式やん

夫

…あ

妻

もー、どうするのよ

夫

お前一人で行ってこいよ

妻

ぜったいいや。それまでに仕事見つけてきて

夫

は？

妻

だってそうやんか、私の、妹の結婚式やねんで

夫

そんな世間体にこだわるなよ。ほら、「ノビノビソーセージ」たべようぜ

妻

真剣にきいて。私のところわな妹が結婚したらもう両親二人だけなの、だから出来るだけ安心させてあげたいの。あんたもそれぐらいわかるやろ

夫

…わかる

店員が来る

夫

はい？あ、そうですか。（妻に）どうする？手羽先ムーチョないって、なんか別の頼む？

妻

真剣に聞いて。

夫

なに？

妻

真剣にはなししてよ！

夫

（店員に）すいません、またあとで注文します。はい、すいませーん。

妻は泣き続けている
夫は優しく妻の髪をなでる

夫

ごめん

妻

…このままじゃ私らだめになるで

夫

…子供でもつくるか！

妻は夫の手をはらいのける

妻

だからその前に仕事見つけて！

おわり