晴天。どこまでも続くハイウェイをぽこぽこと走る古い車。ぽこぽこは古いから…だけではなくて、ガソリンが、足りないのだ。ぽこぽこぽこ…と…と…と…ぷすん。
古ぼけたガスストップ。ひざのすり切れたズボンをはいた女がひとり、立っている。
…っらっしゃい。ガソリンですかぁ?
車の窓が開く。顔を出したのは、疲れきった顔をした男…
ここは?
給油所です。
なんでこんなところに…?
こんなところにあると助かるでしょう。
……助かった…。
女、手を出す。
ああ…(ポケットからコインを取り出し、窓越しに女に渡す)
毎度あり。じゃ、入れるよお~。
(ぷしゅーっ、どくどくどく。ガソリンを注ぎ込む。)
こんなところに給油所があるなんて聞いてない…
特に宣伝もしてないしね。
いや…
先長いんだからさ、途中で給油しなくちゃ国境を越えられない。
あとどれくらい?
あんたが来たのと同じだけ。ここがちょうど真ん中だから。
そうか…。じゃあ、全然足りなかったな。万全だと思ったのに…。
道の長さがわからないのに、なんでガソリンの量がわかんのよ。
あるだけ全部入れてきたんだ。
どれだけ持ってきたって一緒よ。たくさん積んだらそれだけ燃費悪くなるんだから。
……
要るだけ全部持って出るなんて無理よ。そういう発想は経済的じゃないです。
経済的…(呆然)………(気を取り直し、)商売は…繁盛してる?
最近はダメね。
もう誰も通らないのかと思ってた…。
あっちからも?
あっちからもこっちからも。
そうか…。それは、
でも、あんたが通ったって事は…、
(何か言いかけるが遮られる)
理由は知らない。どっちの国からも遠すぎて。ここまでは何にも聞こえてこない。
君は、どっちの国から?
覚えてない。
…え……。
お客さん、(車が来た方向を指して)あっちの国のひと?
いや。
じゃあ、(車が向かう方向を指して)国へ帰るんだ。
ああ。君は…、ずっと帰らないの?
どこへ帰るのよ?
そうか…(何か、考えている)じゃあ、ずっとここに?
さあ。飽きたらどっか行くかも。思い出したら帰るかも。
思い出したら帰るのか。
えっ?
帰るところがあったら、帰ることも帰らないこともできる。
男は何か、考えている…。
帰ることと帰らないことしかできないの?
で、あんたは帰るんだ。
うん。
給油が終わる。
あいよ。これで、国境を越えられる。
……乗せてってやろうか?
だから、荷物増えると燃費悪くなるって。人の話聞いてる?
この先、給油所は?
知らない。あったとしても、そこにもまた誰かいるわよ。
……。
さっさと行きな。こっから先も、長いんだから。
男、何かいいかけるが、女はもう聞いていない。女は勢いよく、タンクの蓋を閉める。
男、腑に落ちないまま、車を走らせる。やがて地平線の向こう側へ消えていく。これまでの車が皆、そうだったように…。女はそれを見送っている。これまでずっと、そうしてきたように…。