- 歩いている男女。
- 女
- あ、犬だ。かわいー。
- 男
- どこ？
- 女
- ほら。……えー、野良かなあ。（近寄る）
- 男
- ……え？
- 女
- （犬に）おい。おーい。
- 男
- いやいや、分かんない。どこ？
- 女
- そこ。……そこ。……いるじゃん。……（笑って）え、何で分かんないの？
- 男
- え、犬？
- 女
- うん。……目悪いの？
- 男
- いやいや、っていうか、いない……。
- 女
- ……は？
- 男
- お前、マジで言ってる？
- 女
- うん……。え、そこだよ？
- 男
- ……ギャグとかじゃなくて？
- 女
- ギャグ？
- 男
- その何？……犬が、見えるんだ。
- 女
- いやだから、見えるっていうか、いるから。そこ。その塀の下！
- 男
- ……ちょっとお前、行こう。
- 女
- え？。
- 男
- あの……病院。
- 女
- は？
- 男
- その、いないものが、見えてるから。だからちょっと……。
- 女
- いやいや、あんたちょっと本当、ぶっとばすよ？
- 男
- いや……。
- 女
- いるじゃん！何で分かんないの？そこにしゃがんでるじゃん！……っていうか、本っ当に見えないの？
- 男
- うん……。
- 女
- え、ギャグ？
- 男
- いやいや。
- 女
- 「犬がいぬ」とか、そういうギャグ？
- 男
- だから違うよ。本当にだから、いないから。
- 女
- だからいるよ。いーるーじゃん！……何で？トラウマ？
- 男
- トラウマ？
- 女
- なんかこう、トラウマで、それ以来犬が見えないとか、そういうなんか……。
- 男
- いや違うよ。っていうか、お前の方こそ、なんか、犬を飼いたすぎて、それでこう、幻が見えちゃうとか、そういう……。
- 女
- いや、だから、いるから！ 目の前にもう、いるから！
- 男
- だからいないよ！
- 女
- いるよ！そこ！こっち見てるじゃん！
- 男
- ……お前これ、何本に見える？
- 女
- は？
- 男
- いいから。
- 女
- ３本。
- 男
- うん。これは？
- 女
- ３本。変わってないじゃん。
- 男
- うん、あれは？
- 女
- 塀でしょ？
- 男
- で、あそこは？。
- 女
- だから、犬だって。
- 男
- （ため息）
- 女
- ……っていうか、あんた何か、私がおかしいみたいになってるけど、いるからね
- 男
- ああ……。
- 女
- アンタだからね。見えてないのは。これもしテレビとかラジオとかに撮られてたら、あんた笑いもんだよ？っていうか、おかしい人だよ
- 男
- うん、……ラジオじゃ、分かんないけど。見えないから。
- 女
- ……屁理屈ー。
- 男
- じゃあ、こうしよう。仮に、いると仮定して、
- 女
- っていうか、本っ当、大丈夫？
- 男
- うん。鳴き声、聞こえないじゃん。
- 女
- え？
- 男
- それは、なんで。
- 女
- 鳴いてないもん。大人しくしてるし。
- 男
- じゃあちょっと、鳴かせてみてよ。
- 女
- は？
- 男
- 鳴いたらお前、分かるじゃん。泣き声聞こえたら。
- 女
- ……いいよ。
- 男
- おお。こうなんか、脅かしたりして。
- 女
- ああ。……鳴いたら、アンタ病院だからね。
- 男
- うん。鳴かなかったら、お前だからな。っていうか、どっちみち病院だけどな。
- 女
- うん。……行くよ。
- 男
- おお。
- 女
- ……（駆け寄って脅かす）わっ！
- 猫の鳴き声。
- END