- ナオ
- おばあちゃん
- おばあちゃん
- ああ、ナオかい。お見舞いに来てくれたのかい?
- ナオ
- うん。…う、ううん。
- おばあちゃん
- どうしたの?
- ナオ
- おばあちゃんにお願いしたいことがあるんだ。
- おばあちゃん
- なあに?
- ナオ
- あのね。
- おばあちゃん
- その前に、起こしてくれる?
- ナオ
- ああ、うん。おばあちゃん大丈夫なのかい?
- おばあちゃん
- ええ。よいしょっと。
- ナオ
- おばあちゃん。
- おばあちゃん
- なあに?
- ナオ
- おばあちゃんに信じてもらえないかもしれないけど、話を聞いてほしいんだ。
- おばあちゃん
- 勿論いいわよ。その前に、お母さんから聞いたんだけど、ナオがおじいちゃんの世話をするからって、
みんなに旅行を勧めたんだって?
- ナオ
- ああ、うん。お姉ちゃんは卒業旅行だけどね。
- おばあちゃん
- 偉くなったわね。
- ナオ
- そんなことないよ。
- おばあちゃん
- そうかしら?
- ナオ
- うん。もし言える事があったとしたら、おじいちゃんのおかげさ。
- おばあちゃん
- あの人の?もうボケちゃって何も出来ないのに?
- ナオ
- そんなことないんだ。おばあちゃんに話したいのはそのことなんだ。
- おばあちゃん
- 何かしら?こんな夜遅くに病院にしのんでくるぐらいだから、相当のことでしょうね。
- ナオ
- おばあちゃん、僕の言うことを、信じてほしいんだ。
- おばあちゃん
- 勿論。さあ、話してごらん?
- ナオ
- えーっと、あのね、僕、おじいちゃんのまどろみの中に入ってるんだ。
- おばあちゃん
- まどろみ?
- ナオ
- うん。おじいちゃんが、うとうとしてる時に横で寝るとおじいちゃんのまどろみの中に入り込めるんだ。
- おばあちゃん
- へえ。
- ピアスナオ
- 本当なんだ。
- おばあちゃん
- ええ、ナオの言うことは信じるわよ。
- ナオ
- ありがとう。僕だけじゃなく、犬のムシカ、お姉ちゃんも一緒に入るんだ。そしたら、おじいちゃんは、
すっごく元気なんだよ。
- おばあちゃん
- あの人が?
- ナオ
- うん。いつも、まどろみに入って、色んな世界を旅するんだ。おじいちゃんはいつもこういうんだ。
- おじいちゃん
- よう、来たか!さて、どこに行こうか?
- ナオ
- おじいちゃんは、いつもおばあちゃんに会いに行こうとするんだよ。
- おばあちゃん
- 私に?
- ナオ
- うん。まどろみの中で、迷子になったら、現実の世界に戻って来れなかったら、まどろみに中に居たことをすっかり忘れてしまうんだ。大人になっても。お姉ちゃんは、この間まで一緒におじいちゃんのまどろみの中に居たのに、大人になって、すっかり忘れてしまったんだよ。
- おばあちゃん
- ナオは覚えてるの?どんなところ?
- ナオ
- うん。不思議なところさ。僕の持っている、昔おじいちゃんにもらったミニカーは、大きくなって、
僕達を運んでくれるし、ムシカは話しが出来るようになるし。
- おばあちゃん
- 犬なのに?
- ナオ
- うん。おばあちゃんが手術だった日は、みんなでおばあちゃんのまどろみを探しにいったんだ。
- おばあちゃん
- そういえば、手術の時、あの人が身近に居た気がしたわ。
- ナオ
- 居たんだよ。黄色い場所が見えたから、みんなでそこに行ったらおばあちゃんが居たんだ。
- おばあちゃん
- 手術が怖かったの。それで、他の患者さんにおしえてもらった、楽しかったことを思い続けるってのを心の中で思い続けていたのよ。
- ナオ
- うん。それが黄色の菜の花畑。
- おばあちゃん
- ええ、そう。え?なぜ知っているの?誰にも言ってないはずなのに。
- ナオ
- うん。だから、行ったんだよ。僕達は。途中、大きな化け猫が襲ってきたり、大きな壁があって、問題をたくさん出して来るんだ。それをクリアーしないと通してくれなかったり、車がたくさん居て、自分達より早く走らなきゃ、ここを通さないって言われて、ミニカーが活躍したんだけど。カーレースになって。
- おばあちゃん
- 楽しそうね。
- ナオ
- うん。おじいちゃんは心の中では、いつも元気で、おばあちゃんのことをいつも気にかけているんだよ。
- おばあちゃん
- 私もあの人のことを、よく考えるわ。
- ナオ
- 今日も、おじいちゃんのまどろみに入ったんだ。
- おばあちゃん
- 今日もあの人の夢を見たわ。
- ナオ
- おばあちゃんに会いに来たんだよ。おじいちゃんは、小さなトマトを持ってきたはずだよ。
- おばあちゃん
- ええ、ええ。
- ナオ
- それでね、僕が、洗濯物を入れるのを忘れたからって、一度、現実の世界に戻ったんだ。
- おばあちゃん
- ええ。
- ナオ
- そして、洗濯物を入れて、またおじいちゃんのまどろみに入ろうとしたら、全然入れなくなってしまったんだ。
- おばあちゃん
- ナオが寝すぎて、入れなかったんじゃないかしら?
- ナオ
- そんなことはないよ。今まで、なかったもん。
- おばあちゃん
- で、あの人はどうなってるの?
- ナオ
- それが、うんともすんとも言わない。
- おばあちゃん
- それが心配で、ここに来たわけね?
- ナオ
- そうなんだ。
- おばあちゃん
- どうするの?
- ナオ
- おばあちゃん、僕を信じてくれてありがとう。
- おばあちゃん
- もちろんでしょう。
- ナオ
- うん。おばあちゃん。おばあちゃんのまどろみに入りたいんだ。
- おばあちゃん
- わたしの?
- ナオ
- うん。そして、おじいちゃんがどうなってるか、見に行きたいんだ。
- おばあちゃん
- いいわよ。
- ナオ
- ありがとう。もう一つお願いがあるんだけど。
- おばあちゃん
- なに?
- ナオ
- 僕が持ってきたボストンバッグ。
- おばあちゃん
- ええ、大きい荷物ね。
- ナオ
- こいつも、おばあちゃんのまどろみに入れてあげたいんだ。
(ボストンバッグを開けるナオ)
- ムシカ
- ワン!
- おばあちゃん
- まあ、ムシカ!
- ナオ
- おばあちゃん!病院は動物は駄目なのを知ってるけど、ムシカの力がどうしても必要なんだ。
- おばあちゃん
- ええ。わかったわ。
- ナオ
- じゃあ、おばあちゃんはねむってくれるかい?
- おばあちゃん
- いいわよ。
- ナオ
- ムシカこっち。おばあちゃんの横で眠るんだ。
- ムシカ
- ワン!
- ナオ
- おばあちゃん、ありがとう。
- おばあちゃん
- いいのよ。ナオのしていることが、自分のためじゃないって言うことが、私にとってはうれしいのよ。
- ナオ
- うん、おばあちゃん。絶対におじいちゃんを見つけてくるからね。
- おばあちゃん
- ええ。じゃあ、眠るわよ。
- ナオ
- おやすみ!
- おばあちゃん
- おやすみ。
- ムシカ
- ワン。
- おしまい