- 軽快な朝の始まり。響く目覚ましの音!
- 俵太
- あ、しまったー!
ヘイ!グッドモーニング!僕は俵太。遅刻の俵太。今僕は遅刻しているところ。これで数えて14009回目の遅刻だ。
一回目の遅刻は出産予定日の翌々日に産まれたことだったね。痛いね!そして
一万回目の遅刻は忘れもしない二十歳の誕生日、母親が僕の出生届を出し忘れていたことを思い出したのさ。だから僕は今法的に十歳。三十路なのにね!
あ、母さん!
- 母
- (品の良い淑女風に)俵太さん、今日は朝からキムチを食べましょう。
- 俵太
- 朝からキムチは辛いです、母さん。
- 母
- なるほど反抗期というわけね。俵太さん、今日は納屋でお過ごしなさい。
- 俵太
- 母さん、せっかんですか、あー。
- 扉の閉じる音。
- 俵太
- また遅刻だー。
このように不条理な家庭に育つ僕でもあるが、今日はそんなシケた話はやめにして、僕の運命の出会いについて話そう。
- 男が一人、現れる。
- 早退君
- おーい。俵太くーん。
- 俵太
- 彼の名前は未だ不明。しかし彼にはある特徴があって、それがまさに僕にとって運命的なのだ。先程僕は自分の事を遅刻屋だと紹介してみたが、彼はその反対、早退屋なのだ。
ある日の待ち合わせ。
ごめーん、遅刻したよ。
- 早退君
- いいんだよ。あ、もう帰る時間だ。
- 俵太・早退君
- バイバーイ。
- 俵太
- こんな風に、僕らはまだちゃんと話したことは無かったのだ。しかし僕は知っている。遅刻には遅刻の辛さがあって、それはちゃんとした人からは決して理解してもらえない。しかし、一歩目を転じてみて早退。これだって辛いはずだ。遅刻はだらしなさ感を、早退は裏切り者感を出すものだ。
- 俵太・早退君
- だから僕たちはきっとつらさを共有できるに違いない。ああ、早退(遅刻)君と話したい。話したいよう。しかしどうすれば。そうか!電話!
- 二人、同時に電話をかける。いつまでたってもつながらない。
- 二人
- なんでいつも話中なんだ!
- 俵太
- そんなわけで、僕はとうとう病気になった。(シャレにならないほど咳き込む)
- 母、登場。
- 母
- (泣きながら)俵太さん、もう逝ってしまうの?もっと遅刻しなさい。
- 俵太
- もうダメです。母さん、最後に僕の遺言を聞い、
- チャイム鳴る。
- 母
- (明るく)ハイハーイ。
- 俵太
- 母さん・・・。
- 早退君登場。
- 早退君
- 俵太くん!
- 俵太
- 早退君!
- 早退君
- ごめんね。お家がわからなかったから、一軒一軒回ったんだ。間に合ったかな?
- 俵太
- 間に合ったよ、早退くん。・・・君と話がしたかった。
- 早退君
- 僕らの人生は辛いことだらけだね。遅刻くん。
- 俵太
- そうだね、早退くん。僕らがこうなのは生れついてのものなのに。僕らのせいではないのに。
- 早退君
- いや、半分くらいは自分のせいさ。後は性だね。
- 俵太
- おかしいな、話が合わない。
- 早退君
- 実は君がいまわのきわだから言わせてもらうけど、僕は遅刻をする奴が大嫌いなんだ。
- 俵太
- おかしいぞ。
- 早退君
- だって僕らは早退しなくちゃならないのに、遅刻されたらもう、殴るよ、普通は。
- 俵太
- 勝手な話だ。それならそっちが早退しなければいい話じゃないか。
- 早退君
- 無茶言うな。早退するんだよ!
- 俵太
- するなよ!
- 早退君
- するんだよ!こら、ひっかくな!
- 俵太
- そっちこそ!うお。殴ったなー!
- 俵太・早退君
- このやろうー!
- 不思議な音楽。
- 俵太
- あれあれあれれ?なんだか、僕は変な感じがするよ。
- 早退君
- 僕もだ。
- 俵太
- あ、七時。ドラえもんを見なくちゃ。
- ドラえもんの主題歌。
- 俵太
- あ、見れた!ドラえもんを初めて最初から見れた!
- 早退君
- あれ、今2話目が終わったよ!次回予告だ、エンディングだ!初めて終りまで見れた!
- 俵太
- もしかして、中和されたのか?
- 早退君
- 君のおかげだ。
- 俵太
- 僕こそ。
- 二人、笑う。
- 俵太
- ああ、まさに人という字を書いて人だね!
- めでたしめでたし。おわり。
- おわり