- 男の部屋。深夜。テレビの音が流れている。
- 男
- じゃお前このソファ使って寝ていいから。
- 女
- うん。ありがとう。
- 男
- でもなええかげんさ。男と別れたら俺とこ来るん、やめてくれる?
- 女
- え迷惑?
- 男
- いやいやそうじゃないけどさあ。
- 女
- 来たくなるんよ。あんたの顔見たくなるの。
- 男
- まええけど。さ明日も早いんやし寝よ寝よ。テレビ消すで。(テレビを消す)
- 女
- うん。おやすみ。
- 男
- おやすみい(電気も消す)……て、ちょっとちょっとなに。
- 女
- え?
- 男
- なんでお前俺の布団入ってきてんの?
- 女
- えあかん?
- 男
- いやいやいやいや。あかんていうかさ。……え、いやあれなにそういうことなんか?っていうかさ……。え?
- 女
- あのね……あのさあ。
- 男
- え。なになに。
- 女
- 私な実はな……。
- 男
- うん……ごくり(唾を飲む)
- 女
- いや自分でもどうかと思うねんけどな。
- 男
- うん。
- 女
- 最近な一人で寝れんのよ。
- 男
- は?
- 女
- 誰かが横におってくれなあかんのよ。
- 男
- ほお。
- 女
- それもな男の人やないとあかんみたいなんよ。
- 男
- マジで。
- 女
- うん。そういう体になってもうたみたいやねん。
- 男
- どんな体や、それ。
- 女
- というわけで、ちょっと。はいはいはいはい(と布団に入っていく)
- 男
- なになになに。ちょっともう。ああー(入ってこられた)
- 女
- 今日だけ。嫌?
- 男
- 嫌ちゃうけどさ。
- 女
- あー……うん眠れそう。
- 男
- そうなん?……(ため息)でもさどうかと思うで。そういうの。
- 女
- うん。
- 男
- なんていうか不幸な感じするわ。
- 女
- 分かってる。なんとかせなあかんと思ってるよ。
- 男
- ……男依存症?
- 女
- わっ、最低やなその響き。ちゃうで、ちゃうちゃう。腕枕がないと寝らんだけやもん。
- 男
- 腕枕依存症?
- 女
- いやや!そんなん。
- 男
- でも、そうなんやろ。
- 女
- ……ああ、ふしだらな女になってしもうた。
- 男
- うん……あのさ俺も一応男やからさ。ええの?
- 女
- なにが?
- 男
- そんな安心してええの?
- 女
- うん。安心できるよ。
- 男
- そう。……なんですか、これは?
- 女
- え?
- 男
- やっぱりあれですか。愛ですか?
- 女
- えなに?
- 男
- ちゃうの?
- 女
- 私があんたに?
- 男
- そう。
- 女
- あーいーかあ。愛。愛情?
- 男
- うん。
- 女
- (照れて)クワーッ。
- 男
- なんやクワーッて。
- 女
- ないな。
- 男
- あないんや。
- 女
- うん。ないない。
- 男
- えなに。じゃあこれどういう状況?
- 女
- えーひとやすみ?ドライブイン?休憩所?オアシス!うん。
- 男
- へえオアシス。
- 女
- うん。でもな。
- 男
- うん。
- 女
- 愛以外はねあるよ。あんたに。全部ある。
- 男
- あそう。愛以外はね。あるんや。
- 女
- 今日だけ。
- 男
- うん。
- 女
- あんたかて眠れへん夜くらいあるでしょ。
- 男
- え?
- 女
- ないの?
- 男
- うん、ない。
- 女
- そう。幸せなんやね。私と違って。
- 男
- そうなんかな。不幸ではないんかもしれんな。
- 女
- あ……眠くなってきた。
- 男
- うん。ええで。寝て。
- 女
- (眠りに落ちながら)うん。
- 男
- ……あのさ。
- 女
- (ほとんど寝ていて)ん?
- 男
- ……俺はさ、あるんよ。全部。
- 女
- (寝ている)
- 男
- なあ聞いてる?
- 了