部屋。
２人、ハガキの宛名を書いている。
字を書く音。

女

・・・ねえ。

男

ん？

女

「とっとり」ってさあ、どっちが先だっけ。

男

どっちって？

女

「鳥」か、「取る」か。

男

ああ、漢字。

女

うん。

男

とっとりは・・・・「鳥」に、「取る」だろ。

女

ああ……そっか。

男

うん。

女

そうだよね。（書こうとする）

男

え、待って。……逆かなあ。

女

え？

男

取るに、鳥で……？え、どっちだろ。分かんない。

女

ああ・・・。

男

（考えて）・・・・とっとり。

女

まあでも、鳥に取るでいいよね。（書こうとする）

男

いやいや、違ってたらお前。

女

ああ・・・・。

男

そのなんか、住所録とかないの？

女

ない。

男

誰に出すの。

女

先生。

男

先生か・・・・。

女

うん。今もう実家に住んでるらしくて、だから住所が分かんなくて、道代にきいたんだけど、その、とっとりが、ちょっと。

男

ああ・・・。

女

電話で聞いたから。

男

（考えて）……どっちだっけ。

女

まあけど、うん。鳥が取る方でいくよ。（書こうとする）

男

いやいや、いくなよ。

女

大丈夫だって。

男

いやだから、間違ってたらすっごい恥かしいから。こういうのは。

女

ああ・・・・。

男

ちょとじゃあ、両方書いてみて。何か別の紙に。

女

ああ。（紙を取る音）

男

その、鳥が取るのと、なんだっけ。取る鳥と。

女

見比べて。

男

うんこう、字面のバランスで。

女

じゃあ、（書く）……鳥が、取る、と。

女、書き終わる

二人

・・・おー。

女

やっぱほら、これじゃない？

男

うん。なんか、これっぽいよなあ。

女

こうなんか、しっくりくるもん。

男

こう、見慣れた感じがある。じゃあ、もう一個は。

女

ああ、取る鳥。

男

うん。

女

（書きながら）・・・・違うと、思うけど、

女、書き終わる。

二人

・・・・あー。

男

・・・・これもけど、あるよなあ。

女

うん・・・・。

男

なんかこう、別のバランスで成立してるっていうか。

女

とっとりっ、ぽいよねえ。

男

（見比べて悩む）・・・・どっちかなあ。

女

県、つけてみよっか。

男

おお。

女

（書いて）こうほら、とっとり県にして、

男

こう、全体でバランスを見ると。

女

うん。（書き終わって）・・・・どう？

男

・・・・いよいよ分かんないなあ。

女

・・・・なんかどっちも鳥取県に見えるよねえ。

男

うん。っていうか、俺どっちも、見えなくなってきた。

女

あー・・・・。

男

見過ぎて。。

女

なんか変な字に見えてくるやつだ。

男

うん。・・・・ダメだ。気持ち悪い。・・・・もうじゃあ、調べよう。

女

ああ。

男

こう、辞書かなんかで。

女

だけど、辞書ってまだダンボールの中・・・・。

男

ああ、そっか。……じゃあなんかこう、鳥取にまつわるものっていうか、

女

まつわる？。

男

こうなんか、梨の箱とか。

女

いや、ないでしょ、そんなの。

男

あー・・・・。

女

あれは？天気予報。こうほら、テレビで出るじゃん、地図とかで。

男

いやだけど、鳥取のは出ないだろう。

女

ああ。

男

地方がだって違うし。

女

もうじゃあ、誰かに聞く。電話で。

男

あー。お前聞いて。

女

やだよ。恥ずかしい。聞いてよ。

男

いやいや、俺だって恥ずかしいよ。

女

あー。

間

男

これどう？・・・・もういっそ、先生呼ぶのやめる。

女

なわけ、ないでしょ。

男

ないよな。

女

一番喜んでくれる人なんだから。

男

そうだよな。・・・・鳥取・・・本当これどっちも正解に見えるなあ！

女

完っ全に２分の1だよねえ。

男

うん。でしかも、選んだ方が間違いな気がする。

女

うん。……もうじゃあひらがなでいっか。

男

いや、よくないよ。それは一番ダサいよ。

女

あー、じゃあ、カタカナ。ひらがなよりほら、何かあえて書かなかった感じがしない？

男

しないし、しかもこう、余計、ごまかしてる感じがするっていうか。

女

うーん。

男

ローマ字で、こうエアメールっぽくしてさあ。

女

最悪。

男

最悪か……。

女

エアメールじゃないし。

男

じゃあ、。

 

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２人の声、フェイドアウト。
それとクロスして、徐々に拍手とざわめきが聞こえてくる。
そして、ウェディングマーチ。
結婚式である。

END