※「」内のセリフは、壁の向こうに大声で言ってるセリフです。
※大声のセリフほど、エコーがかかります。

銭湯。
エコー付のガヤと、フロオケの音。

男

あ。・・・・・「カナコー。」

女

「ハーイ。」

男

「石鹸忘れちゃったんだよー。悪いけどさー、投げてくんない？」

女

「行くよー。」

男

あ、ちょっ！

ポチャッという音。
男達のざわめき。

男

（焦って、人に謝る）すいません。

女

「取れたー？」

男

「バカお前、どこ投げてんだよ！人に当たりそうになったよ！」大丈夫ですか？当たってないですか？

女

「すいませーん。」

男

「すいませんじゃねえよ！壁越しに謝んなよバカ！」ごめんなさい。本当もう、どうしようもない……

女

「バカって何よ！あんたが投げろって言ったんじゃないよ！」

男

（戸惑いつつ）「言ったけど、だから計算して投げろっての！」

女

「分かんないよ、あんたの位置なんて！」

男

「分かんないって、声で分かるだろ！もういいよ！」

女

「よくないよ！こっちは女湯のみんなが聞いてんだから！」

男

「こっちだって男全員聞いてるよ！だから恥ずかしいからもうやめろ！」

女

「あんたが悪いんじゃないよー！」

男

「だから、お前の投げ方が悪いんだよ！大体分かるだろ！銭湯なんて大体左右対称になってんのに、湯船に投げるヤツがどこにいるんだよ！」

しかし、響いて聞き取りにくい。

女

「……何？聞き取れない！」

男

「（ゆっくり）銭湯なんて、大体左右対称になってんのに、湯船に投げるヤツが、どこにいるんだよ！」

女

「……もういい！」

男

「え？」

女

「あんた、面倒くさい！」

女達の笑い声。

男

「おい！何で笑ってんだよ！」

女

「甲斐性なしうるさい！」

女達の、さらに大きな笑い声。

男

「味方につけんなよ他の女を！　じゃあ、言わせてもらうけどな、何でお前らは、そうやってすぐ感情的になるんだよ！もっと理性で考えろ！」

男達の歓声と拍手。

男

（男達に）ありがとうございます！どうもです。

女

「男の、その自信はなんなのよ！弱いくせに！」

女達の歓声と拍手。

男

「女はなあ、もっと女らしくしろ！」

女

「男がしっかりしなさいよ！」

男

「女はなあ、女は……」

鳴り止まない、拍手と歓声。 ：
：
帰りの夜道。
２つの足音。

女

……ごめんね。

男

いやいや、俺がもう。

女

（笑って）なんかえらいことになってたね。

男

男と女の代表みたいになってたからな。

女

……ま。

２人の声、遠ざかっていく。

男

やっぱ内風呂だな。

女

あした一緒に入ろっか。

男

（照れて）え？

:
:
野良犬の鳴き声。

ＥＮＤ。