- ゆるやかなカーブを走る
道路に灯るオレンジ色のライトが、
助手席に座るアドの顔を照らす
- アド
- おっちゃん。どこまで行くん?
- 男
- ・・・。
- アド
- おっちゃん。どこ連れて行くん?
- 男
- ・・・。
- アド
- さっきからだんまりやなぁ・・・もう。あ~ぁ・・・。
- 男
- ・・・退屈か・・・?
- アド
- うん。退屈。窓開けてもええ。
- 男
- 気つけや。
- アド
- 何が?
- 男
- 120キロ。
- アド
- 分かってる。ちょっと窓開けるだけやん。
逃げたりせえへんわ。
車の窓を開けると ぴよおおおと風が鳴る
- アド
- すごー・・・。きもちいいー・・・今ドア開けたらぜーったい死ぬわ。
- 男
- 気つけ・・・。
- アド
- だからそんなことせえへんって。
あたしもそんなアホちゃうし。
騒いだりするほど子供ちゃうし。
なぁ、おっちゃん。どこ行くん?
- 男
- アドの好きなとこでええで。
どこがいい?ご飯食べるか?
- アド
- 変な名前。大嫌いやこの名前。
アドがやって。嫌い、嫌い、だーいきらい。
- 男
- それは・・・。
- アド
- ひとーつ。ふたーつ。
車で走ってたらあのオレンジの電気いっぱい見える。
ひとーつ。ふたーつ。
全部で何個あるんかな?数えたらすぐ後ろにさがっていく。
すぐ通りすぎて、さっきまで目の前にあったのにもう・・・ばいばーい。
ひとーつ、ふたーつ。手ふってばいばいしたこと増えていく。
オレンジの電気と同じように、いっぱいばいばい増えていく。
- 男
- アド。
- アド
- 呼ばんといてよ、それ。
- 男
- 昔、教えたやろ。歌いながら、絵描く人やってん。
あっという間に出来上がるねん。
かわいくて、なんかやさしい絵で。
それ二人とも大好きで、だからお前にその名前つけてん。
- アド
- 知らん。
- 男
- 知らんことないやろ。教えたはずやで。
- アド
- なぁ、おっちゃん。
- 男
- おっちゃんて言うな。
- アド
- だって、おっちゃんやん。
他にどう呼ぶんよ?手ふってばいばいしたやんか。
ばいばいした人のことは、もう知らんねん。
- 男
- ・・・一ヶ月に一回会うの、嫌か?
- アド
- しゃあないわ。マチコちゃんがおっちゃんと約束したんやろ。
- 男
- マチコちゃんて呼んでるか?
- アド
- どう呼ぼうとあたしの勝手。
- 男
- 勝手って、あのなぁ。
- アド
- 止めて。
- 男
- え?
- アド
- 車止めてよ。
- キキーとブレーキが悲鳴を上げる
- アド
- 貸して
- 男
- え?
- アド
- マジック。あるやん、そこ。
- 男
- ええ?
- アド マジックのフタを取ると
- アド
- ♪自分勝手なマチコちゃん。自分勝手なおっちゃん。
二人はいつでも自分勝手。
それをみていたアドちゃんも、自分勝手になりましたぁ♪
- キュキュと窓ガラスに落書き
- 男
- あっ!アド、それを油性マジックやのに・・・まだローンが・・・。
- アド
- ほんまは憶えてるわ。
- そう言って アド 助手席のドアを開け一人で歩いていく
- 男
- アド。どこ行くねん。
ご飯は?嫌やったら家まで送るから。マチコ心配するし・・・。
- アドは男にむかって叫んだ
- アド
- 一人で帰れる。今は分からんねん。
今はむかつくことしかでけへん。
やから、一人で帰る。
- 車が通りすぎる
またばいばいがひとつ増えた
アド持っていたマジックで看板に道路にいたるところに落書きをする
- アド
- アドちゃん・・・この名前、ほんまは嫌いちゃうのにな・・・。
アドの絵が町のいたるところに増えていくばいばいの代わりにおっちゃんとマチコちゃんの絵がたくさん