- 女
- ちっとも売れへんな。
- 男
- え。
- 女
- 大体フリマいうたらもうちょっと都会でやるもんやで。
- 男
- 自分、今日仕事やゆうてなかったか?
- 女
- 外回りや。
- 男
- えらい外回りやな。
- 女
- 行楽シーズンの土曜日やゆうのにまじめに仕事してられるかいな。
- 男
- 珍しな。
- 女
- 何。
- 男
- 仕事第一の几帳面な性格してるくせに。
- 女
- こういう日もある。
- 男
- うん。
- 女
- また、あんた場所が悪いわ。ここ裏門やん。
- 男
- ここしか空いとらんかってん。
- 女
- ああもう。
- 男
- せやけどしゃあないやろ。申し込みギリギリやってんから。
- 女
- だからあんたはいつでも思いつきで行動するから。
- 男
- 放っといてくれ。
- 女
- ほんまに。
- 男
- 自分も仕事に戻りい。なんぼ外回りやいうても外回りすぎるで。いって帰ってくるだけで…。
- 女
- サクラや。
- 男
- は?
- 女
- サクラの一人もおらんと誰もよりつかへんやろ。
- 男
- サクラか。
- 女
- うん。
- 男
- お客さん掘り出しもんぞろいでっせ。
- 女
- あほ。
- 男
- まあ見るだけ見ていってえな。見てくだけならタダよ。
- 女
- あほか。
- 男
- ま、見慣れたもんばっかしやろ。
- 女
- なあ、何でフリマなんて…。
- 男
- ああ、それ、50円は高いか。
- 女
- このマグカップあたしが使ってるやつやん。
- 男
- ああ、うん。
- 女
- コーヒーメーカーうちら付き合う前からあんたがもってた。
- 男
- 500円。
- 女
- どういう事?
- 男
- どういう事ゆうてもなあ。
- 女
- 何それ。あたしに黙って引越しでもするん?
- 男
- まあ、何や。
- 女
- 何?
- 男
- いらんもんやしな。
- 女
- え。
- 男
- うん。
- 女
- ええっと。
- 男
- うん。
- 女
- それってあたしと別れようってそういう…。
- 男 女の頭にさわった
- 女
- 何、何。
- 男
- キンモクセイの花ついてた。
- 女
- え。
- 男
- ほら。
- 女
- あ、うん。
- 男
- たしか、裏門のとこで咲いとったな。
- 女
- うん、なつかしなあ思て。
- 男
- ああ。
- 女
- 昔な、ようちえんの行き道にさいててん。友達となつんでなよう、おままごとした。
- 男
- へえ。
- 女
- これも売ってまうん。
- 男
- え?
- 女
- ミントのはちうえ。
- 男
- うん。
- 女
- 大事に育てたやつやろ。
- 男
- この際な。
- 女
- ええと。
- 男
- あの、な。
- 女
- 人間、あんまり突然やと、どうタイショしたらいいかわからへんな。
- 男
- 自分ミントきらいやろ。
- 女
- ええと。
- 男
- この際思いきって。
- 女
- ちょっと待って。
- 男
- え。
- 女
- ぽんぽんゆわんと、あたしもできるだけ、取り乱さんと話したいから。
- 男
- うん、俺もその、言い出しにくいから。
- 女
- あとには、今晩、あたしんち行くから。
- 男
- ええと。
- 女
- 一発なぐってもいい?
- 男
- え?
- 女
- ちょっとすっきりせえへんから、何かごっついむかついてるから、一発だけ、それで気が済むから
- 男
- うん。
- パンと女が男をたたいた
- 女
- え。
- 男
- いや、その中々、言い出しにくくて。
- 女
- え、え。
- 男
- で、その思い切って売っ払って、で、すっきりしてから言おうと思って。
- 女
- ちょっと。
- 男
- まあ、その何や、そういう事。
- 女
- ちょっと待って。そういう事って。
- 男
- うん。
- 女
- あたし、てっきり。
- 男
- いや、ゴカイさせてしもて。
- 女
- たたく前にいうな。
- 男
- いや、思いきりが、ついてええかな思て。
- 女
- あほ。
- 男
- うん。
- 女
- そのミントいくら?
- 男
- え?
- 女
- あたしが買うわ。ほらこれ。
- 男
- キンモクセイ。
- 女
- さっき、一人でき二人、ほら、こうするとなきれいで。僕、キンモクセイになったみたいゆうてはる。
- 二人、少し笑った。
- 了