(アクアテラリウムの中。コオロギの声がよく聞こえる。)
なあ、自分俺のこと好きなん?
……
どうなんよ?
わからへん。
マジ?……きつー!(コオロギの声がいっそう大きくなる)
…今頃そんなん言うなや。わからへん?どういうことやねん。
信じられへんわ。どうすんねん?え!これから!
……
なんか言えや!
何で逆ギレされなあかんのよっ!しゃーないでしょ、わかれへんねんから。
…いや、キレてる訳じゃないねんけど…
非常識やわ。今この状態でそんなこと聞くなんて!最低!もう、あっち行って!
あっち行ってって、それこそ非常識やろ。どうやっていくねん?飛び出せって言うんか?
そうや、また、出ていったらいいねん。
アホっ!この間出て行ったらえらい目に遇うたわっ!
フフンッ(と、鼻で笑う)!えらい乾燥して帰ってきたもんね。びっくりしたわ。
自分なあ、人ごとや思って笑うなや。自分かて、飛び出たらわかるわ。
自分自分、言いなや。
しゃーないやろ、名前ついてないねんから。
あっ、来たっ!子供も来た。
子供3人もおるのに、よう俺ら飼う気になったな、ほんま。ちゃんと世話してくれるんかいな?
子供に、喜んでもらおうって魂胆でしょ。フフッ、ほら子供、私達観て喜んでるわっ。
でっかい顔して、ふん!観んなっ!こっち、観るなやっ!くそっ!
何怒ってるのよっ。
見せもんにされて、誰がいい気すんねん。
そやな。
餌入れても、観てる前では、食べませんっ!おっ、コオロギ2匹入れよったか。
あっ!いただきっ!(むしゃむしゃ)
自分、節操ないな、ほんま。子供、びっくりしとるやないか。見せもんになってるやん。
もう一匹、いただきっ!
ちょう待て、それ、俺の、あっ!……
(ムシャムシャ)グズグズしてるからでしょ!早い者勝ちっ!
(溜息)
ねえ、子供が私達の名前付けてるわっ!えーっと、私が、ぴょんで、あんたが、スズ子だって。あはははっ!
ちょう、待てよ!俺は男!オスなのっ!オス!ちょう待てっ!
あんたが、私よりだいぶ小さいから、メスや、思ったんとちがう。
俺は、オスやっ!ほら、この親指の所の出っ張り観てくれ!ほらこれっ!
聞こえてへんわ。
観てくれーっ!ああっ、行くなっ。ちょう待てよ、もっとよう考えてくれよっ!
あーあ、行っちゃった。
最悪や。何で、俺がスズ子やねん。ああー、もう最悪っ!最悪最悪!
(コオロギの声が、大きくなる。)
ねえ。
……。最悪や。
ねえってば。
なんやねん。
ほら、そこの虫かご。観てごらんよ。
ん?
虫かご。
ああ。
あのコオロギ、全部私達に食べられるために飼われてるねんで。
あんな養殖コオロギ、美味しないわっ。
そうやなくて、最悪なんは、あっちやろ。食べられるために飼われるのと、鑑賞のために飼われるのとどっちが最悪なんよ?
ああ、わかってる。はいはい、ぴょんさん。
もうっ!
……
……
(コオロギ達の声)
ねえ。
何?
何でさっき、好きかって聞いたん?
なんでも。
何で?
何でよ?
俺らな、
うん
あと何年か生きるわけやん。
うん。
ほんで、あいつら
あいつらって?
3人子連れのファミリー!
ああ。
あいつらって、俺ら今年で死ぬと思ってるやん。
うん。そやね。
つまり、餌、何年間か、要るわけやん。
うん。
あいつら、大変やろ!餌の飼育で。
まあね。で、それが好きかどうかに関係あんの?
いや、つまり、この夏では、くたばらんやろ、俺ら。
そんなんわからんワ。いつ死ぬか、誰にもわからんやん。
まあ、聞けや。秋になっても俺ら生きてて、そして冬になったら、冬眠するやろ。
うん。
ほんで春になったら、産卵期がくるわけや。
はあ?
産卵やで。
ああ!
結構、好きかどうか、重要やと思わへんか?
まあ、そうやね。
いや、別に嫌いでもええねんけどな。…ただ。
ただ?
産卵成功したら、あいつらめちゃくちゃびっくりするやろなあーって、思って。
フン。(鼻で笑う)
餌、めちゃくちゃ要るやん!あいつらどないすんのかなーと思って。ハハハッ!…いや、それだけやねん。……しょうもないな、すまん。
ふんふん、…、…好きやで、…、スズ子のこと。
ほんまかっ!やっひょうー!
(アクアテラリウムの中で大喜びする、チョウセンスズガエルのオス)