- セミ時雨…
- 女
- 今日はもうええの
- 男
- え
- 女
- 仕事
- 男
- こう暑いと仕事ならんなあ
- 女
- せやけど
- 男
- って、おっちゃんがゆうてた
- 女
- おっちゃんて、カントクの
- 男
- うん。なあ、お好み焼でも食べにいこか
- 女
- お好み焼
- 男
- キンキンに冷房の効いた店でビールのんで
- 女
- 今晩やろ
- 男
- え
- 女
- コンサート
- 男
- まあ、せやねんけどな
- 女
- お好み焼たべて、ビールのんでる場合とちゃうやん
- 男
- はるちゃん、幾つになったんやっけ
- 女
- え、私
- 男
- うん
- 女
- 20才
- 男
- せやろ、もうどうどうとビールのめるなあ
- 女
- お兄ちゃん 何言うてるの
- 男
- お兄ちゃんか
- 女
- どないしたん
- 男
- お兄ちゃんももう今年で30才
- 女
- 知ってるよ
- 男
- この仕事も今年で5年
- 女
- うん
- 男
- はるちゃん、まだ中学生やったもんなあ
- 女
- お兄ちゃん
- 男
- 覚えてるか 5年前は桑名正博のコンサート
- 女
- うん
- 男
- 若い子誰も知らん、知らん
- 女
- うちのお父さんよろこんどったで
- 男
- 次が牧しんじや
- 女
- そうそう
- 男
- 今年は名前も知らんような演歌歌手や
- 女
- この町、若い人少ないから
- 男
- ええとこやのになあ
- 女
- ほな、なんで出ていったん
- 男
- ははは
- 女
- ええとこやのに
- 男
- せやから毎年帰ってきてるんやないか、里帰り、仕事ついでに
- 女
- うん
- 男
- はるちゃんはどっか出ていこうて思たことないか
- 女
- お父ちゃん病気やからな
- 男
- 旅館の手伝いか
- 女
- うん、これでも三代つづいたシニセやからな
- 男
- 今時珍しいで そういうの
- 女
- 私、この町好きやから、何にもないけど
- 男
- 海ぐらいか
- 女
- 山もある
- 男
- 俺この町おっても仕事なかったからな
- 女
- わかってる
- 男
- ははは
- 女
- 何よ
- 男
- いや、はるちゃんもゆうようになったなあ思て
- 女
- いつまでも子供や思てたらあかんで
- 男
- せやな
- 女
- なあ、どないしたん
- 男
- 金、持ちにげされたそうやわ
- 女
- え
- 男
- されたいわんな。持ちにげしたんは社長やからな。
- 女
- 何、どういうこと
- 男
- まあ、俺らにとっては持ちにげされたゆうことになるんかな
- 女
- お兄ちゃん
- 男
- ちゅうことで今日のコンサートはなしや。お好み焼たべにいこか
- 女
- ……
- 男
- 職探さんといかんなあ。来年からはこられへんか、ここも
- 女
- お兄ちゃん
- 男
- お兄ちゃんはやめにしようや。俺ははるちゃんにとってコンサートのお兄ちゃんやろ
- 女
- うん
- 男
- 今日からただのおっさんや。30やしな。
- 女
- なあ
- 男
- 何や
- 女
- おっさん、お好みたべにいこか。私がおごったげるわ。
- 男
- ははは
- 女
- ぴちぴちの若い女の子のおシャクつきやで。
- 男
- ぴちぴちなあ
- 女
- 明日、泳ぎにいこ
- 男
- え
- 女
- 明日はまだ、こっちおれるんやろ
- 男
- うん
- ー了ー