- ダンス音楽に合わせて、足踏みの音が聞こえてくる。
(バタフライ/スマイルd.k等のプレイステーションのDDR2nd.remixに使用されている曲)
男の息遣いと共に突然、音楽も止まる。
- 男
- 疲れたあ、ちょい休憩。
- 女
- ・・・・・ねえ。
- 男
- ん、お前もやる?結構これ面白いぞ。
- 女
- そんなんじゃなくってさ。
- 男
- じゃあ、何?
- 女
- 出かけようよ。
- 男
- (即答)出かけない。
- 女
- ・・・・・いい天気だよ。ここに来る途中、公園の桜がキレイに咲いてたよ。一緒に見に行こうよ。
- 男
- わざわざ出かけなくってもさ、ほら。
- 男、部屋の窓を開けて、指さすと公園の桜の木が見渡せる。
- 男
- な?
- 女
- ・・・・・あ。
- 窓の外から、公園で遊ぶ子供達の声が聞こえてくる。
- 男
- ・・・平和だねえ。
- 女、言葉が続かず、タバコに火を点ける。
男、少し不思議そうにその光景を見つめる。
- 男
- お前・・・・・タバコ吸うんだ。
- 女
- ・・・・まあねえ。
- 男
- (少し笑って)もうシガレットチョコじゃあ、ないもんなあ。
- 女
- え?
- 男
- ほら、憶えてる、高校の時。
- 女
- あ、シガレットチョコ事件!
- 男
- 何であんなことしたのか分かんないけど、入学式にさ、ヤマシタのヤツがシガレットチョコ持ってきて、校長の話の合間に吸う真似しもって食ってたらタバコ吸ってるって間違われて大目玉だったよなあ。
- 女
- そうそう、2時間校長室でずっと立たされてたよね。
- 男
- 所で、なんであんなお菓子が、ホンモノのタバコに見えるんだぁ?
- 女
- しばらく、ヤマシタ君、シガレットって皆に呼ばれてたよねえ。
- 二人、笑いあう。
男、突然笑うのを止めてしまう。
- 男
- ・・・・・・・・・。
- 女
- ・・・・・ごめんね。
- 男
- 何で、謝るんだよ。
- 女
- だって・・・・。
- 男
- いいって・・・・。
- 男、笑顔を作ろうとするが、そういう自分に嫌気が差して止めてしまう。
二人、気まずくなって黙り込む。
再び、子供達の声が聞こえてくる。
- 女
- また、4月が来たんだねえ。
- 男
- オレさあ・・・・。
- 女
- うん?
- 男
- 世紀末って、1999年で終わるって思ってたんだあ。
- 女
- 実は、私も。なーんか、2000年で世紀末ってキリが悪いんだもん。
- 男
- だよなあ・・・分かったとき、こうなんて言うのかガックリ来ちゃってさあ。こうしていく事しかできないんだなあってさ。
- 女
- どういう・・・・意味?
- 男
- あの時さ、ノストラダムスの本、流行っただろ?ヤマシタとオレで、卒業式の時、賭けたんだよ。
- 女
- 何を?
- 男
- 地球は滅亡するのかどうかってさ。
オレはキレイさっぱり、滅亡。ヤマシタは何も起こらず生き残るって。
- 女
- ・・・・そう。
- 男
- 年末にテレビでカウントダウン観ながらさ、ワクワクしてたんだよ。
賭は誰が勝つのかってさあ。
5・4・3・2・1・0!!
そしたら、なーんも起こらないだろ?ヤマシタが勝ったんだよ。
なのにさあ、いないだろ、どこにも。地球の終わりなんて来ずにこうしてオレは生きてるって言うのにさあ、あいつはいないんだよ。
- 女
- それで、別れたの?
- 男
- ああ。
- 女
- 少し呆れて)彼女、承知したの?
- 男
- もう、せっかくの着物が台無しになるくらい怒りだしたよお。
- 女
- 普通、そうだと思うよ。
- 男
- 理由は何ナノって、しつこいしつこい。
- 女
- そりゃ、そうだよ。
- 男
- 他に女が出来たって、言ってやった。
- 女
- (呆れて)サイアクねえ・・・・。
- 男
- 相手は高校の時の、同級生って言ってやった。
- 女
- ・・・・それってさあ。
- 男
- 相手は、お前だって事にしておいた!!
- 女
- 最悪・・・・・。
- 男、笑いだす。
- 男
- おっかしいだろ?
- 女
- おかしくないよ、全然・・・・。
- 男、笑うのを止めて真顔になる。
- 男
- いつの間にかさあ、「オレは死ぬ」じゃなくって「オレは死ねる」って思ってたわけなんだな、これが。
かと、言ってさ、死ぬ理由なんてないし、見付かるわけもないし、自殺・・なーんて柄でもないし。
とどのつまり、こうしていくことしか出来ないんだな、オレは・・・・・。
ヤマシタと立場、反対だったら良かったのにな・・・・。
- 女
- だから・・・ずっとここに閉じこもってるの?
- 男
- ここはさ、オレにとってのシェルターな訳。
体、動かしたけりゃあ、ダンレボやるし、誰か話し相手が欲しくなったら、パソコンでチャットやればいいし、金はバカな親が勝手に振り込んでくれるし、不自由なんてなーんも、ないんだよ。
- 女
- ・・・・・・・バカだね。
- 男
- かもなあ。これで、分かったでしょ?もう、高校の時とは違うんだよ、オレ。心配するだけ無駄なんだよ。もう、帰っていいから。
- 女
- ・・・・・・ねえ、教えて。
- 男
- 何?
- 女
- 賭けに勝った時は何か貰えるとかってあったの?
- 男
- へーえ。キャベツか。白菜じゃなく?
- 女
- 何?
- 男
- なんだっけかなあ・・・・・。
- 男、少し考え込むが、女のタバコを見てはっとする。
- 男
- (タバコの箱を掴んで)これだよ!!
- 女
- え・・・これって、タバコ?
- 男
- そうじゃなくって、シガレットチョコ!!
- 女
- シガレットチョコ!?
- 男
- シガレットチョコ、生きてる間に、ずっとだよ。
- 女
- 何でよ?
- 男
- 分かんねえけど、あいつがそう言ったんだよ。(笑って)バッカだよなあ。
- 女
- ねえ、行こうよ!
- 男
- 行こうってさあ・・・・言っただろ?
- 女
- なーに、言ってんだか。約束果たさないとさ。
- 男
- 果たすって?
- 女
- 取りあえず、シガレットチョコ買いに行かないと。
- 男
- そんなの今どき、何処にあるんだよお。
- 女
- 探すのよ、賭けに負けたんでしょ?
とにかくさ、これからシガレットチョコ渡していく、第1回目のシガレットチョコ、ハデに一杯回に行かなくっちゃね。
- 男
- でも・・・・。
- 女
- まだ、ぐずぐずしてるの?シェルターにいたってチョコは見付からないし、約束も果たせないじゃない。
- 男
- だよなあ・・・・・行くか!
- 女
- 行こう。
- 二人、はしゃぎながら、部屋から出ていく。
- 終