- 日に焼けた女性が備前焼の厚手のお椀に、少しとろみのありそうな汁を入れて、美味しそうにすすっている。
秋の美しい夜空を見ながら。秋の虫が、ころころと鳴いている。
- 私
- ふーっ、ふーーー。ああ、美味しい。ふっーーーーっ。
土生姜を入れると、体が温まるのよねーっ。えっ?私?
なぜそんなもの食べてるかって?フフフフフ!
それを説明するには、1年前、いえいえ、20数年前の話をしなければいけないワ。
- 私
- あれは、今からちょうど1年前の話。ええ!そうよ。
ちょうど私が会社を辞め頃よ。
ええ、本当にバリバリ働いていたわね。1分1秒の株の変動を気にしながら、買いダ!売りダ!、って毎日が株のことで頭がいっぱいだったわ。バリバリの証券ウーマンだったわね。
そして、もっともっと効率よく儲けることが出来ないかなーなんて考えるようになったわ。
ええ、そりゃ会社で儲けるよりも、家に居ながら利益を上げた方がいいじゃない。
でもねー。なかなか会社って辞められないのよね。人間関係が あるし。それで、どうしようかなって、真剣に考えていたのよ。
でも、真剣に考えれば考えるほど、解らなくなってくるのよね。
私は、いったい何がしたいんだって。大儲けしたいのかしら?
ー山当てて、みんなから羨望の眼差しでみられたいのかしら?
株主になりたいのかしら?とか。そして、解らなくなって、眠くなってうとうとしたの。これは、1年前の話よ。株のことばっかり考えていた私が、急に会社辞めて、どうして今のようになったかの、きっかけの話。
でも、今から20数年前の話になるから気を付けて。
そうそう、うとうとしてると、もうずうっーと忘れていたことを、思い出したの。
私が、3歳か4歳の頃のこと。私のお父さん、そのころは、パパって呼んでたわ。パパが、毎晩寝るときに、大きなかぶの話をしてくれていたの。知ってるでしょ、かぶを、おじいさんが引っ張る話。
ええ、そう!証券の株のこと考えてたから、かぶが重なって思い出したんでしょうね。とにかく、大きな株の話をしてくれたの。
毎晩。何百話も。その何百話って言うのも、すべて話が違うの。
大きなかぶの話で。フフ。かぶを引っ張る人が、毎日違うの。
毎日毎日変わるのよ。
えっ?いいわよ。
最初は、いつもこう始まるの。
- パパ
- 今日も、おじいさんは、かぶを採りに行くことにしました。
「今日は、どんなかぶが採れるかのうー」そう言うと、おじいさんは、畑に入っていきました。
ガサガサガサッ。「今日はこのかぶを採ることにしよう。」
そう言うとおじいさんは、かぶを引っ張りはじめました。
「うんこらしょっ、どっこいしょっ!」しかし、びくともしません。
- 私
- ここまでは、童話と大体同じでしょ。でもこの後、おばあさんと娘を同時に呼ぶの。でも、かぶがびくともしなくて、次は、なぜか二人のお相撲さんがやってくるの。
- パパ
- するといつものように、二人のお相撲さんがやってきました。「今日も、手伝うドスコイ!」「任してください、ドスコイコイコイハッ…!」そこでみんなは、かぶを引っ張りはじめました。
(おじいさん)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(おばあさん)「ウンコラショ、ドッコイショ」、(娘)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(お相撲さん1)「ウンコラ、ドスコイドスコイ!」、「ウンコラ、ドスコイコイコイコイハッー!」
- 私
- もちろん、まだまだかぶは、地面から抜けないの。そこで、いつもここで登場するのが、空を飛ぶゾウのダンボと、そのお母さんのジャンポなの。その、ダンボの背中には、いつも私と、妹が乗ってて、おじいさんに空から挨拶するの。
- パパ
- 元気よく挨拶しました。「おじいさん、こんにちわ!」
そしてみんなは、かぶを引っ張りはじめました。
(おじいさん)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(おばあさん)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(娘)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(お相撲さん1)「ウンコラ、ドスコイドスコイ!」、「ウンコラ、ドスコイコイコイコイハッー!」ジャンボが、「パオーーンッ!」、空にはダンボが「バッサァッ、バッサァッ!」、その背中から、「がんばってーっ」
- 私
- もちろん、かぶはまだまだ抜けないわ。
もっとたくさんの人や動物が手伝いに来てくれるの。
サイとか、キリンとか、ワニとか、実家で飼っていた猫とか、犬とか、ウルトラマンとか、赤影とか、ネズミのガンバとその仲間とか、汽車のトーマスとか。
とにかく、いっぱい、毎晩いろんな人が、動物が、おじいさんを手伝いに来るの。そうそう、親戚が飼っていたサンディーと言う鳥もレギュラーだったけど、死んでからぱったりと出てこなかったっけっ。
とにかく、そんな昔の、パパの話を思い出したの。
- 私
- えっ?あら、いいところに気がついたわね。そうなの。
最後に、必ずかぶは抜けるのよっ。そして、とっても大きいから、おじいさんがみんなに取り分けてくれるの。
話に出てくる小さな私も、かぶをもらって、家に帰るの。すると、いつもママが、そのかぶを料理してくれるの。なんでも、昆布と、鰹でだしを取って、かぶを入れ、お酒や、しょうゆ、みりんなどで薄い味付けをするの。
ママが。最後に、少しトロミを出すために、片栗粉を入れるの。
土生姜を入れて、家族みんなで食べてこの話はおしまい。
長い話でしょ。ここまで聞くと、たいがい眠くなって、寝ていたわ。
- 私
- ええ、そんなわけで私は今、その料理を食べているの。
もちろん、一年前から はじめた自作農園でつくって自分で抜いた、かぶを使ってね。本当に美味しいの。
会社を辞めて、株取引から足を洗って、農園をはじめたのは、これを食べるため。なんだか、やっとパパがわかったような気がするわ。ねえ、食べる?とっても、暖まるわよ。
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