- ―ある高校の屋上。
- 女
- 「何で途中でやめるのよ」
- 男
- 「…」
- 女
- 「ねぇ」
- 男
- 「何だかシラけちゃった。」
- 女
- 「何で…」
- 男
- 「…聞くなよ、いちいち。」
- 女
- 「…。」
- 男
- 「帰ろう」
- 女
- 「…イヤ」
- 男
- 「じゃ、オレ帰るから」
- 女
- 「待ってよ」
- 男
- 「…。」
- 女
- 「何でよ。呼び出したのそっちでしょ」
- 男
- 「…ごめん」
- 女
- 「あやまればいいってもんじゃないわよ」
- 男
- 「…会いたくなって、会ったら別にどうでもよくなって」
- 女
- 「よくまあ、そんなこと言えるわね」
- 男
- 「自分でもびっくりするぐらいだよ」
- 女
- 「勝手すぎるわよ」
- 男
- 「どうせ何にもしてなかったんだろ」
- 女
- 「してたわよ。」
- 男
- 「何を」
- 女
- 「本読んでた」
- 男
- 「いいよ、そのぐらい」
- 女
- 「よくない。いいとこだったんだから」
- 男
- 「また、読めばいいじゃないか。」
- 女
- 「興奮さめちゃったわよ」
- 男
- 「興奮するようなヤツ読んでたの」
- 女
- 「…違うわよ、そんなんじゃ」
- 男
- 「何読んでたの」
- 女
- 「何だっていじゃない」
- 男
- 「帰ろう」
- 女
- 「いやだって」
- 男
- 「帰って続き読めよ」
- 女
- 「それが勝手だって言ってるの」
- 男
- 「寒いよ、ここ」
- 女
- 「屋上行こって言ったのもそっちよ」
- 男
- 「他に行くとこないだろ」
- 女
- 「あるわよ…」
- 男
- 「…」
- 女
- 「キッサ店とか、公園とか、…」
- 男
- 「あきた、もう」
- 女
- 「…じゃ、電話しなきゃいいでしょう。全く、ハラタツな…」
- 男
- 「ああーあ、始まるな、学校…」
- 女
- 「…始まるわよ、そりゃ」
- 男
- 「爆弾でぶっとばそうか、学校」
- 女
- 「爆弾ないもん」
- 男
- 「ああーあ、何にもやってない、宿題」
- 女
- 「やったことないじゃない、いつも」
- 男
- 「ま、そうだけど」
- 女
- 「…飛びおりたら死ぬかな」
- 男
- 「死ぬよ、そりゃ」
- 女
- 「飛びおりよっか」
- 男
- 「いやだよ」
- 女
- 「こわいの」
- 男
- 「こわいよ」
- 女
- 「こわいよね、そりゃ」
- 男
- 「…」
- 女
- 「ガムのんじゃった、さっき」
- 男
- 「え?何で」
- 女
- 「だって、いきなりだったから、ケヘヘヘ」
- 男
- 「…ガムのむほどのことかよ」
- 女
- 「ガム消化すんの」
- 男
- 「しないで、そのまま出てくるよ」
- 女
- 「ゲッ、うそ。…何で、知ってるのよ。のみこんだことあん
- 男
- 「あるよ」
- 女
- 「出て来た?そのまま」
- 男
- 「知らないよ。見ないだろいちいち」
- 女
- 「じゃ何で出てくるって言ったのよ」
- 男
- 「出て来そうだろ、消化しそうにないだろ。ガム…」
- 女
- 「そりゃまあ、そうだけど」
- 男
- 「…」
- 女
- 「どうした?ガム」
- 男
- 「えっ?」
- 女
- 「ガムよ、ガム…かんでないじゃない。」
- 男
- 「捨てた」
- 女
- 「えっ?」
- 男
- 「捨てたって」
- 女
- 「どこに」
- 男
- 「どっかそのへん」
- 女
- 「だめよ」
- 男
- 「だってもう、捨てたよ」
- 女
- 「誰かふんづけるでしょう」
- 男
- 「しょうがないよ」
- 女
- 「しょうがなくない…エチケットよ」
- 男
- 「やめてくれよ」
- 女
- 「探しなさいよ」
- 男
- 「帰ろう」
- 女
- 「ダメだって、ちゃんと拾って」
- 男
- 「もういいよ」
- 女
- 「拾うまで帰らない」
- 男
- 「どこか忘れたよ、もう…」
- 女
- 「…」(と、探している)
- 男
- 「帰るぞ、オレ…」
- 女
- 「…」
- 男
- 「じゃあ…。」
- ―間。
- 女
- 「あった…。ホラ、ここ…ちょっと拾いなさいよ… ねえ…。…ねえってば…」
- ―間。
―誰もいない屋上。風の音だけ。
- 女
- 「…誰かが、これふんずけて…あ、しまったって思う。
…靴の裏側にへばりついたガムをいまいましそうに、取る。
…ねばりつくガムにハラをたてる。…今日の日の不運を一体誰につぐなってもらうのかを考える…ふと、誰もいないことに気づいて、尚のこと、落ち込んでしまう…。
顔をあげると、夕焼けに街が染まっている。」
- ―風の音…。
- END